消費税引き上げ前夜に:2014年の経済ジャーナリズム (月刊Journalism 没原稿)

Journalism 2014年1月号

Journalism 2014年1月号

もうすぐ消費税率引き上げなので、その前に昨年末に書いた原稿をアップしておく。朝日新聞の雑誌「Journalism」が、2014 年の経済ジャーナリズムについてということで、要求通りのものを書いたのですよ。

ところが、ゲラまで直したあとで、いきなり編集長判断でボツ、とのこと。

その後、実際の雑誌が出たのを見たところ……とにかく全編、なんでもいいからとにかく安倍政権批判をしなくてはいけない、という至上命令が下った模様。群靴の音だ、秘密保護法でやりたいほうだい、政権の私物化だ云々。全部そんな記事ばっかり。え、2014年のジャーナリズムのあり方についての特集じゃなかったんですか――

ジャーナリズムは秘密保護法に反対しなくてはならない、よってジャーナリズムは安倍政権に反対すべき、ヘイトスピーチがおそろしい、よってジャーナリズムは安倍政権に、ジャーナリズムは今後、世論を形成する主導権を握らねばならない――そんなのばかり。そうした上から目線で、自分が世論を主導するとかいう態度がいまのジャーナリズム不信を招いている面もあるんだけれど、そういうのは無視。

ちなみに、これが目次です

そして、経済ジャーナリズムのところに出ていたのは……紫ばあさんでした。アベノミクスはとにかく悪い、マスコミがアベノミクスなんていう造語をもてはやしたのが悪い、だそうな。いやはや。

ぼくは当然、自分の書いたもののほうがまともだと思っているんだけれど、朝日新聞 (まあ一雑誌の特集が全社を代表しているとは言えないだろうけれど、ぼくは今回についてはその色が強いと思う) および Journalism は、紫ばあさんの支離滅裂な煽りのほうがいいと思ったわけだ。まさにいまの経済ジャーナリズムがダメなのはそこで、自分のイデオロギーにあえば経済学的な内容すらまるで考えずに載せてしまうというところなんだけれど。その意味では、自ら現状の問題点を体現して見せたあっぱれな雑誌……ではどう考えてもないな。

ともあれ、没原稿は刻んで Voice に使ったけれど、もったいないのでここにも転載。

経済ジャーナリズム:2014年への展望 (2013.11 執筆、pdf 360kb)

いまでもぼくは、だいたいこの予想通りになると思ってるんだ。

付記

そうそう、これを一部で見せたら、その通りという人が多かった一方で、今後のメディア報道については、そこまで悲観しなくてもいいのでは、という声がある新聞記者からあった。いまや日銀内部も代わってきて、かつての白川体制は「アンシャンレジーム」と呼ばれているそうな。新聞内部でも、かつてはまったく表に出せなかった反デフレや金融緩和政策がまじめに扱えるようになっている。かなりメディア内でも風向きは変わっているので、いきなりちょっとの失策で緩和路線が変わったりすることはないんじゃないか、とのこと。

その人は昔からリフレを主張していて冷や飯を食わされていたので、その人がもう肩身の狭い思いをしなくていいというのはすばらしいことだと思う。その一方で、文中にも書いたけれど、ぼくはマスコミ系/学者系のプライドだけは高いえせインテリのルサンチマンを甘く見てはいけないと思っているのだ。そういう人たちは自分ではグチを言っているだけかもしれないけれど、ちょっとおだてて自尊心をくすぐられると、いろんな動き方をするようになって、すごく便利に使われてしまう。そしてそのために、権力を持たされることも多い。

松丸:「三島クン。我々がなぜキミを東西銀行に送り込んだかわかるか?」

三島:「そ、それは、わしの力が必要だから・・」

松丸:「無能だからだ! 無能な人間ほど、権力を持たせて
     煽(おだ)てれば、思いどおりに動いてくれるのだよ」

――『公権力ナントカ 中坊林太觔』(だっけ)

そんなわけで、足下をすくわれないよう気をつけてほしいところ。10%談義、すぐきますから。

付記その2:ぼくだけではなかった!

こちらをごらんあれ玉木正之「体育からスポーツへの大転換の時代」とのこと。

実はぼくがボツにされた号の予告を見ると、「2014年を展望する:政治/経済/憲法/原発/国際関係/ネット/スポーツ その他」とある。ひょっとしてこの原稿って、ぼくがボツになったのと同じ号で「スポーツ」枠で予定されていた原稿じゃないんだろうか。2013年とか2014年specific ではないので、ちがうかもしれないけど。ちなみに Journalism 1月号にはスポーツ関連の原稿は出ていない。

もしそうだとすると……

予告に出ていて掲載されていない枠としては「ネット」というのがある。ひょっとしてどこかのだれかが、Journalism 用に2013年のネットをふりかえり、2014年のジャーナリズムとネットについての展望をする、なんていう記事を書いてボツにされたりしてるんじゃないだろうか。安易なところで、津田大介とかそういう原稿を抱えてたりしそう。どうせそこで「ハフィントン・ポストと朝日新聞の同床異夢:既存メディアとネットの危うい関係」とか書いたりしたでしょー。

そういう没原稿を集めて「裏 Journalism」をつくると、ひょっとしたら本家よりいいものになりそうな気もするんだけどね。



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山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.