Thomas Pynchon Inherent Vice結末

Inherent Vice

Inherent Vice



(承前

 ゴルディタビーチ出口を過ぎてしまったら、看板の読み取れた最初の出口を出て一般道で戻ろうと想った。ローセクランスで高速が東に折れるのは知っていたから、どっかで、ホーソン大通りかアルテシアで霧が晴れるはずだけど、ただしそれは今晩の霧が広がって地域全体に落ち着かない限りだ。そうなったらこの状態が何日も続いて、そしたらひたすら運転を続け、ロングビーチを過ぎ、オレンジ郡をぬけてサンディエゴをこえ、そして国境を越えてそこでは霧の中でだれもだれがメキシコ人でだれがアングロでつまりはだれであってもかわからないところに出るかもしれない。でも一方でそれが起こる前にガス欠になって、キャラバンを離れて路肩に停めて待つしかなくなるかも。何かが起こるのを。高速警察が来ても彼にかまわずにすませてくれるのを。スティングレイの落ち着かないブロンドが停まって乗ってかないと申し出るのを。霧が燃え晴れ、そして今度こそそこに何か、なぜか、代わりに存在しているのを。


(完)*1



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*1:長いことご愛読ありがとうございました! トマス・ピンチョン先生の次回作にご期待ください!