頭でっかちで、仕事をしたことのない人の戯言。しかも革命のやりかたはわからないそうな。

革命---資本主義に亀裂をいれる

革命---資本主義に亀裂をいれる

本書はこう始まる。

壊すこと。われわれは壊したい。今ある世界を壊したい。不正、戦争、暴力、差別、ガザ、グアンタナモ、このような世界を壊したいのだ。億万長者がいる一方、空腹で暮らし死んでいく莫大な数の人々がいる世界を。

むろん世界は完璧じゃない。だが、空腹で暮らし死んでいく人の数は、圧倒的に減った。暴力、差別、ガザ、グアンタナモも圧倒的に減った。今ある世界のおかげで。その世界を壊したら、不正や暴力や差別や空腹で死んでいく人が減るの?

そして、今ある世界を壊すための手段というのは、自分が好きなことをやるとか、資本主義否定の本を出す出版社とか、「今日は仕事を休み、あれやこれや読みたい本をもって、公園へ行くことにした東京の女の子」とかだそうな。へえ、ずいぶんお気楽なんですね。仕事さぼれば革命で世界破壊ですか。

でも、実は「革命とは、資本主義の破壊ではな」いそうな(p.314)。なんだ、壊すんじゃなかったの? やるのは、「資本主義をつくるのをやめること」なんだって。でも、この人の考える「資本主義」って何? どっかにおっかない資本家や権力があって、それが無理矢理人を働かせている、というのがこの人の幼稚なイメージで、それを聞きかじったマルクス用語や現代思想用語で飾り立てているだけ。

そして具体的にどうやって資本主義をつくるのをやめるか? 「大問題は、われわれが答を知らないこと」(p.315) なんだって。でもいろいろ試すのがえらいそうな。なーんだ、それじゃえらそうに能書きたれてるんじゃねーよ。アームチェア革命夢想家のまぬけな悦に入ったお題目ばっか。「抽象的労働に抗して『為すこと』を解き放つ黙示録的革命へ」と帯にはあるけど、黙示録的革命って何? あんたら、黙示録って読んだことあるの? 抽象的労働って何? そんなものがあると思ってるのは、本当に仕事をしたことのない学者や頭でっかちのインテリだけ。あらゆる仕事や労働は、具体的で個別なんだから。

そしてさらに、こういうお間抜けぶりについて「われわれは(中略)ただの馬鹿かもしれない。それでも尚、われわれ馬鹿者たちは、新しい何かが現れるのを見ることができると思っている」などとごまかす。先回りして、自分たちが馬鹿かも、と行っておけば「いやそんなことありませんよ」と言ってもらえると思ってるんだよ、こういう馬鹿は。でも謙遜した馬鹿はやっぱり馬鹿でしかないのだ。

ついでに、訳者の夜郎自大ぶりも噴き飯もの。「共訳の過程において、プエブラ市のホロウェイ、京都の篠原、ニューヨークのわたしという三都市の交流が実現したことは、至福の一言である」(p.386) って、著者と訳者がメールでやりとりしたくらいで、なんで「三都市の交流が実現」になってしまうわけ? だいたいそれまでその都市に住む人々の間で何らかの仕事上の協力がなかったわけでもあるまいし、またそれをやるのに大きな障害があったわけでもあるまいに。

というわけで、書評になんか微塵も値しません。



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