初歩から最先端の成果までを実に平易に説明、日本の研究水準紹介としても有益。あとは値段さえ……

自己変革するDNA

自己変革するDNA

みすず書房で「画期的概念の創出へ」などと帯の背に書いてあるもんで、また例によってDNAのトンデモ解釈に変な現代思想をからめて悦に入ってるようなアホダラ経じゃねえだろうなあ、と警戒して読みはじめたが、まったくの杞憂。実にすばらしい本。

DNAとは何か、という初歩の話を、ワトソン=クリックのエピソードもからめて楽しく説明、その後だんだん高度な内容にまで入る。DNA修復の話と時差ぼけ解消の日向ぼっこの関係、有性生殖の意義など、おもしろい話も(ちゃんとまじめな内容と関連づけて)満載。そして、その有性生殖の話を一つの核に、遺伝子の組み換えと、本書のタイトルでもある自己変革につながるあたりは、面倒な話を本当にわかりやすく説明していて、見事の一言。 書かれている内容も、一卵性の双子も歳をとるにつれて遺伝子がちがってくるとか、多少は分子だの遺伝だのについて知っているつもりの人間でも「えっ!」と驚くことばかり。

また、意図的なことだが日本人研究者の各種の研究があちこちで言及され、それがきわめて重要な役割を果たしていることが示されているのも、非常に心強く感じるし、これをもっと多くの人が読めば「おお、日本もやるな、もっと予算つけていいかも……」と思うんじゃないか。他の分野ではしばしば、嫉妬心などからか他の日本人の業績に敢えてふれなかったと思える残念な例が多く、それが結局カニバケツ状態となってつぶし合いになっているようなケースも感じられるが、こうやって出してもらえれば一般人も(そして学生なども)、自分だって可能性があるように思えてくるはず。そうした試みも立派。

値段が3000円近くて高いのは残念。とても親しみやすい書きぶりだし、書かれている内容もごく初歩のところからかなり先端の話まで網羅しており、非常に勉強になるので、初学者(できれば頭のいい高校生くらいから)に気軽に手にとってほしい内容。この値段と、みすず書房だから敷居が高そうという感じがするのとで、損をしている。まったく同じ内容でブルーバックスにでもできないもんか。

なお、最終章で生物学外の話をするというので身構えたが、それも杞憂。特に経済学がらみの話は実に的確で驚いた。反デフレ派の人は pp.218-19 で感涙にむせぼう。


 絶賛書評だが(ぼくも悪口書評ばかりだと心が痛むので、素直にほめられるのはうれしい)、たぶん冒頭の「トンデモ解釈」「アホダラ経」あたりがアマゾンの自動検出装置ではねられてるんだろうと思う。すぐには公開されていない。



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山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.