藤井司『死体入門』

死体入門 (メディアファクトリー新書)

死体入門 (メディアファクトリー新書)

昨日、三連発で悪口(でもないんだが、あまりほめてはいない)書評を並べたけれど、今日のこれはおもしろい! タイトル通り、法医学者が死体のあれこれを並べた本で、中身的には昔ぼくが書評したDeath to Dust: What Happens to Dead Bodies と同様(ただしあっちは五百ページもある本でこっちは新書だから中身的には薄くなる)。あっちは、法医学者がもっと臓器提供をしてもらおうというのを基本的な動機として書いたもので、こっちは法医学者が、もっと死体に興味をもってもらおう、関連分野の学生を増やそう、という動機で書いている。だから、おもしろいネタをいろいろ集めようという熱意がみなぎっているし、九相詩絵巻をカラーで載せたりとサービス精神も旺盛(ぼくもちゃんと見たのは初めて)。

小著ながら、知らなかったネタも満載。特に驚いたのは、よく推理小説なんかで、青酸カリでだれかが殺されると「アーモンドのにおいがした」と書かれるけれど、あれはみんなの思ってるアーモンドの匂いじゃないんだって! みんなが想像しているのはローストしたときの香りで、青酸の匂いというのはその前の、生の実の状態のにおいだから、全然ちがうんだって。あとは、うんこずわりができるかどうかは、慣れの問題ではないとか、あれやこれや。

その他、Soap lady の話とかも出ている。著者にはいつか、フィラデルフィアのムター博物館を訪れて訪問記を書いてほしいところ。

それにしても、法医学関連の学生は減ってるのか。テレビドラマの CSIBonesパトリシア・コーンウェルの小説なんかで、結構認知されて人気が出てるのかと思っていたよ。

一度出た本を、更新して新書にしたとのこと。いったん世間のフィルターにさらされて市場の審判を経ているだけあって、よい本。スプラッターホラーなんかで喜ぶようになった中高生あたりからおすすめ。



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山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.