ベーコン『アート・オブ・コミュニティ』:是非ともやりたかったんだが。紹介しないのが惜しい本。

アート・オブ・コミュニティ ―「貢献したい気持ち」を繋げて成果を導くには (THEORY/IN/PRACTICE)

アート・オブ・コミュニティ ―「貢献したい気持ち」を繋げて成果を導くには (THEORY/IN/PRACTICE)

最近のオライリーはMake 関連本のおかげもあって、コンピュータ書の枠におさまらない一般性のあるヒットをたくさん飛ばしている。その筆頭格が「子どもが体験するべき50の危険なこと (Make: Japan Books)」と並んでこの本。いまや Linux を代表するディストリビューションとも言うべき ubuntu (でも最近いじってねーや。がんばらないと) を例に、ボランティアのコミュニティをどうまとめ、どんな形でみんなのやる気を引き出し、トラブルを解決して目的を実現するかについて、具体性を持って説明したとてもよい本。ubuntu が例なので、どうしても全体にテクニカルな組織や集団に例が流れるけれど、ちょっと見方を変えるだけで、ビジネスでもNGOでも活用できる。コミュニケーションの取り方、対話の仕方、紛争解決、そしてイベントの開催まで。それこそそれこそ女子高生野球部マネージャが読んで参考にしてほしい本。ドラッカーなんかよりはるかに参考になります。

唯一ほしいなと思ったのは、目的が達成された後の集団のきれいな解散。集団が自己目的化しないためにはどうするか? でも ubuntu はいまのところそういうことを心配しないでよい集団なので、これはまあないものねだり。

実例も豊富、話もわかりやすい。いろいろなツールがネット上の各種ツール主体になるのも、以前なら欠点だったかもしれないけれど、いまはたぶんずっと敷居が低いとは思う。むろん、応用に工夫はいるけれど。正直いって、ぼくが朝日の書評委員にいることの最大の意義は、こういうそのままだとコンピュータの棚にしか置かれない本を、他のもっと広い読者に紹介していくとか、既存の枠を超えた本の読み方を提案することだと思うんだ。これはそのための非常によい本だったんだけれど、いま執筆予定の本が詰まっているので、とても扱えない。残念。だが、次もあるから……



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山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.