フランク「アンネの日記」:やはりモノにはそれに適した年齢があると思う。

アンネの日記 増補新訂版

アンネの日記 増補新訂版

言わずと知れたアンネの日記。こないだアムステルダムに行ったとき、いつも長い行列ができているアンネの家にスッと入れたので見物したついでに、そういえばなぜかアンネの日記って読んでなかったなあ、と思って義務的に。

で、考えて見ればあたりまえだが、収容所に入ってからの話はないんだよね。ユダヤ人への迫害が強まる中でこっそり暮らしつつ、メインはふつうの女の子らしい日常の苦労が延々綴られる話。アンネの年齢から見て、よく書けていると思う。世を忍んで生きねばならないつらさも、確かに感動する部分はある。でもやはりこれは、最後につかまって殺されてしまったという悲しい結末をみんな知っているからこそ読む本で、戦時中の生活に関する記録としての一定の価値はあるものの、この日記の記述自体にすごい文学的価値があるというものではない。しかも、実際にアンネの家に行った人はわかるだろうけれど、結構広い! それを知って読むと、つらい暮らしの半分くらいは「ぜいたく言うな」になってしまう。

小学生くらいで読めば感動したのかもしれない。この年ではなあ。ものにはやっぱり、年相応というものがあって、ドストエフスキーは高校から大学で読まないと、とか共産主義は高校くらいで一度発症しておいたほうがいいとか。

そういえば、名作テレビドラマ My So Called Lifeで、主人公の高校生(クレア・デーンズ)がこの本の感想文を書く回があって、「アンネがうらやましい、あたしもアンネみたいになりたい」と書いて学校がそれを大問題にして、親が呼びつけられる。

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で、先生が、ナチスの圧政がどうした、収容所に送られたアンネの悲惨が、それを無視してアンネになりたいとは何事であるか、とかお定まりの説教を始めると、クレア・デーンズはブチ切れて「だってアンネはボーイフレンドがいた! あたしはいない! こんな生活いやだ!」と実に高校生らしい近視眼的で身勝手なことをわめく名演技を発揮して、それが懐かしく思い出されましたであります。



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