スペンス『マルチスピード化する世界の中で』:議論は定番で良書ながら通りいっぺんでかけあしすぎ、議論もごく常識的。

シグナリング理論のマイケル・スペンスによるグローバル経済論。途上国の今後の発展をどう考えるべきか、何を重視するのか、みたいな話を並べているんだが、テーマがでかく多岐にわたるために、どの話も通りいっぺん。一般向けということであまり細部に触れられないために、なおさら流した感じになってしまっている。

また言っていることはどれもきわめて常識的。邦題に出てくる「マルチスピード」は、途上国(そして先進国)でもいろいろ発展スピードには差があるので、すべてに画一的な方策をあてはめて事たれりとしてはいけないよ、という考えをあらわしたもの。でも、現代は「次の収斂」というもので、これまで20世紀は、急速に発展する国とそうでない国の間の格差拡大の時代だったのだけれど、それが今後、成長がいろんなところで生じることにより収斂してくる、という考えのあらわれ。驚くような話は出ていないし、どれも世界銀行その他の公式見解とさほど差が無く、無難すぎ。温暖化対策の話も、排出削減しか考えていないなど、不満もある。

全体として、悪い本ではない。各種議論のざっとしたおさらいにはよいと思う。でもわざわざ紹介すべき本でもないと思ったのでとりあげなかった。



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山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.