チャトウィン&セロー『パタゴニアふたたび』:パタゴニアをテーマにした文芸ネタの楽しい博識くらべ


パタゴニアふたたび

パタゴニアふたたび

これ、翻訳あったんだ。知らなかった。原著はなぜか持ってて、昔ざっと読んだんだけど……(おまけ:右にあるのが二人のサイン。)

中身はパタゴニアという変な地の果ての土地と、そこに行き交った流れ者たち――ダーウィン、ブッチ・キャシディ&サンダンス・キッド、マゼラン等々について、チャトウィンとセローがそれぞれ文学・紀行文の知識をかけあいで次々に繰り出す。チャトウィンパタゴニア』を読んだ人なら、そこで読んだエピソードがたくさん使い回されているのにはすぐ気がつくけれど、あそこでちょっと悲しげに使われていたエピソードが、こっちではかなり嬉々として楽しげにやりとりされていて、少し印象がちがっておもしろい。セローも負けじとあれやこれや。最後に何かまとまるわけでもなく、放り出されたままで終わるけれど、テーマがなんとなく、生と死、その比喩としての旅となり、パタゴニアがその終焉の地として収斂してくるのはさすが。

短い本なんですぐ読める。『パタゴニア』がちょっと長すぎると思った人もどうぞ。翻訳もなかなかきれい。本書の後で『パタゴニア』を読むと、印象はーうーん、変わるような変わらないような。変わらないかな。でもまた読んで見ようかという気にはなる。

パタゴニア/老いぼれグリンゴ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-8)

パタゴニア/老いぼれグリンゴ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-8)

ただ一箇所、ブッチ・キャシディかなんかの末路を書いたところで「アメリカに帰国し、畳の上で死んだ」(p.45, 強調引用者) という訳になってるところがあって、ニヤリとしてしまったよ。毛唐に畳暮らしさせちゃいけねえや。おさまりがいいんで、つい使いたくなるんだけどね。かく言うぼくも昔、ギーガーの翻訳で西洋人を降霊術の儀式で「成仏」させてしまったことがあって……



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