高山『黒人コミュニティ』:黒人コミュニティのダメなところを率直に述べたよい本。

黒人コミュニティ、「被差別と憎悪と依存」の現在――シカゴの黒人ファミリーと生きて

黒人コミュニティ、「被差別と憎悪と依存」の現在――シカゴの黒人ファミリーと生きて

本書に書いたようなことを、社会学者とか経済学者が書いたら、差別だとか、調査のゆがみだとか他者への無理解だとか、いろいろ言われると思う。でも著者は、黒人と結婚してシカゴ近辺の黒人コミュニティの中で生活し、実地の体験としていろんなものを見聞きして、それを非常に率直にここに書いている。むろん、差別はある。でも一方で、それを口実にして努力をしない黒人。身内をかばうのがファミリーと言うことで、悪事も怠けもたかりもすべてなあなあで容認する体質。福祉依存。身内の相互嫉妬によるカニバケツ状態。

どうすればいいか、なんてことはもちろん書いていない。そして、これだけを元に、黒人の地位の低さはすべて当人たちのせいだ、と言ってもいけないのだが、その一方で、当人たち自身の状況があるのも事実。アカロフ&シラー『アイデンティティ経済学』は、これは過去の差別が作った物語のせいだから、社会がもっと黒人に甘くすることでそれを克服できるように、と述べているのだけれど、本書を読むとそれではどうしようもない感じがする。

問題提起としては重要だし、おもしろい本。この手の異文化接触本は、ときどき単に書いてるヤツが無知か非常識か悪意に満ちていたりすることも多いが、本書はそれもない。背景も知っているし、また登場する多くのダメな黒人たちは、ご近所や親戚で、彼女としてもなるべくよいほうに理解してあげようという配慮が至る所に感じられつつ、やはりこういう言い方をせざるを得ない切実さもあり、なおさらやるせない。他に触れたい本があるので、今回はパスだが、読みやすいしイデオロギー的な主張にうんざりすることもなく、よい本だと思う。



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山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.