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コリアー『収奪の星』

朝日新聞書評

収奪の星―― 天然資源と貧困削減の経済学

収奪の星―― 天然資源と貧困削減の経済学

資源は途上国にとって諸刃の剣だ。収入は増えるが、利権と汚職の温床になったり、資源収入への過度の依存で国民の勤労意欲まで消えたり。この「天然資源の呪い」を指摘した一人が、本書の著者コリアーだ。
でも、あらゆる国は何らかの天然資源を持つ。それをきちんと活用して、天然資源の呪いから脱するには? それが本書のテーマだ。
その指摘は単純ながら重い。まず、天然資源の呪いは行政能力の問題だということだ。自国の中で政治家の汚職を監視し、国富を国民に還元する仕組みが弱いので、資源の利益が外国や汚職政治家に吸い上げられたり、無駄な投資が起きたりする。
さらに著者は、その背後にある思想の問題も指摘する。いまの経済学的な計算方法では、資源は早めに採掘したほうが価値が高い。これは、森林や生物などの環境でもそうだ。だからこそ、乱獲が生じ、温暖化問題も生じる。
これを変えるべきだ、と著者はいう。後の世代にも資源や環境の便益を残さなくては、と。
ただし何でもかんでも残せということではない。資源をそのまま残してもいい。でも資源からの収益をインフラ投資や貯蓄に使ってもいい。重要なのは、価値を残すことだ。そうした後代に対する責任を認識し、地球資源の保護者(カストディアン)としての役割を引き受けろと本書は主張する。
単純な資源問題の本に見えたが、政治的関心向上やら教育の改善、インフラ投資など、みるみる話題が拡大する。そして抽象的な議論に思えたものから具体的な政策が展開され、その一部がすでに実行に移されているというのも驚愕だ。大局的な世界的合意形成の困難に関する著者の指摘は、いささか暗澹とさせられるが、本書のようにその合意の基盤となる発想を一歩ずつ踏み固めていくしか道はないようだ。資源問題のみならず、今後の国際協力や環境問題に関心ある方も是非どうぞ。(2012/6/3掲載、朝日新聞サイト)

コメント

これは最初に見たときは、この題名だし「えーん、地球に優しい生活をしないと地球は収奪されちゃうよう、みんなエコな生活をしようぜ」みたいなトンチキな本だと思っていた。
で、そう思わされる部分も多い。冒頭あたりで著者の息子が学校でバカな入れ知恵をされて、アマゾンのジャングルが酸素を作ってるのにそれが破壊されていると言って怒っているという話を書いて、その誤解を解くかと思ったら、それをそのまま受け容れ続けているというのもびっくり。ジャングルもいったん安定したら酸素なんか作らないし、世界的に酸素を作ってるのは海ですから。そんなことも知らないやつが環境の本書くなよー、コリアーもヤキが回ったか、というのが印象。
また、かのスターン報告の鵜呑みとかもひどいなあ、結論には同情的な声も多い一方で、経済学的な手法は味方ですら(ちゃんとした人は)疑問を述べているのに。ロゴフだっけな? Stern Report is right for all the wrong reasons とかいうエッセイ書いてたのは。結論的には指示できるけれど、そのリーズニングは全然だめ、という苦肉の評価。それが本書にはまったくない。
でも、確かにそういう部分もあるんだが、それが大きな話にはあまり影響しない。通常、こういう変な話がいくつか出てくると、最後はトンデモのオンパレードになるんだが、本書はそうならない。細部ではクビをかしげても、全体の主張にはきわめて納得がいくという面白い本。資源の探索と発見にあたっても途上国の行政能力が問題、というあたりから入って、政治への人々の意志反映の重要性とか、資源という切り口で出てくるとは思わなかったネタに話がいくのはとてもおもしろい。
書評としては、平板になっちゃったかなあ。論点が多いのを削っていくと、ほんのさわりだけになってしまった。



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山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.