カプラン『インド洋圏が、世界を動かす』:歴史の話はいいんだが、それが現代的なまとまりと意義を持つという説明が弱すぎ

インド洋圏が、世界を動かす: モンスーンが結ぶ躍進国家群はどこへ向かうのか

インド洋圏が、世界を動かす: モンスーンが結ぶ躍進国家群はどこへ向かうのか

  • 作者: ロバート・D・カプラン,奥山 真司,関根 光宏
  • 出版社/メーカー: インターシフト
  • 発売日: 2012/07/06
  • メディア: 単行本
  • 購入: 2人 クリック: 27回
  • この商品を含むブログ (2件) を見る

インド洋をとりまく国々はかつてはモンスーンに乗って貿易を繰り広げました、というお話。で、最近でもインドとかオマーンとかミャンマーとかインドネシアとか注目国がたくさんありまっせ、という本。

さて、ぼくは日本のバブル時代に、環黄海経済圏とか環オホーツク経済圏とかで地方都市の再生とかいう話を作る仕事もしたことがあるけれど、その時に悩んだのは、そうしたまとまりをつくる必然性があまりないということ。かつての海運中心の世界ならいざ知らず、いま同じ海を囲んでいたからといってなにか経済的な結びつきを取りざたすべき理由はない。昔はここに船が行き来していました、というのは歴史のお話としてはおもしろい。でも、それで?

本書もそんな感じ。最初はぼくが半年前にいたオマーンの話で、歴史をたどり、あれやこれやでソハール港(日本がODA出してます)が重要だという話をする。でもそれで? ミャンマーでもバングラでもみんな話は同じで、歴史の話をして、昔はインド洋でいろいろ貿易をして、という話をする。その後急に、いまの話をして、バングラは政府が弱いとかミャンマーは経済発展しそうだけど軍政が云々とか、だれでも知ってるような話をして、ホントに浅はかでつまらない(そのくせえらくもったいぶった)旅行記みたいなのをくっつけて、おしまい。インド洋という必然性は大してない。インド、中国、ミャンマーバングラ、ここしばらく好調なインドネシアに、思いつきでアフリカくっつけてみただけ。インド洋に面した国は多いし、現題の「モンスーン」でモンスーン気候のところを見たら、インドと中国入って東南アジアも入ってアフリカの一部も入ってついでに中東も入れて――これだけあれこれぶち込めば、そりゃなんか発展してそうな印象くらいはなんでも作れちゃうよね。

同じようなやり方で、西遊記経済圏だの、鶴見なんとかに倣ってなまこ経済圏だのスパイス経済圏だの、いろいろ言えるんじゃない? BRICsもそういうものではあるけど、でもあの本は、別にこの BRICs になにか結びつきがあるかのような書き方はしなかったし、共通の文化がどうしたとかいう話もせず、たまたま今発展してます、という話に徹していたから明快。でも本書は、なまじ教養人ぶっているが故にそうしたすっきり感もなく、思わせぶりな歴史談義が鈍重さをかもしだしていると思う。

個別の国の記述は、それなりにおもしろいかも。ぼくが本書をつまらなく思うのは、たまたまぼくが本書に書かれたマイナー目の国(オマーンバングラミャンマー等々)に行って仕事をしてるので、その個別の記述にあんまり感動しないせいかのかもしれない。でも結局、なんだかんだ言ってインド洋とかモンスーンとかはお飾りでしかなく、全体のまとまりに欠けるし、それを期待して読んだ人はがっかりするはず。ただしこれももらった本なので、評価が甘くなっているかも。



クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.