金『北朝鮮建国神話の崩壊』:インタビューや資料の追跡などのプロセスはおもしろい。ただ、明らかになる内容が必ずしも衝撃というわけじゃなくて……

実は下のマーティンを読み始めたのは、この本を読んで、ここに書いてあることがどこまで目新しいのか確認したかったから。この本は、北朝鮮の建国神話の一つ、金日成が偉大なゲリラ闘士として活躍する中で、白頭山でジョンイル将軍様がお誕生あそばされました、という話を検証し、当時の金日成満州イルクーツクといった地域での「狙撃団」の活動を、生存者へのインタビューや資料を通じて確認したもの。

で、もちろん白頭山で生まれたなんていうのはウソ。ジョンイルくんに、乳の出が悪かった母親にかわっておっぱいあげた人物とかまで登場してびっくり。当時の金日成は中国共産軍や特にソ連の配下にある下っぱの一人でしかなくて、伝記に書かれている英雄的な活躍なんかとうていできるはずがなく、実際にしていない、という話。著者はかなり初期(70年代とか80年代とか)にこれを明らかにしたおかげで総連にいやがらせを受けたりして大変だったとか。でも、だんだん新資料が出てくるにつれ、北朝鮮金日成回顧録でそのあたりをまたつじつまが何とかあうようにごまかし、さらにこのあたりにやってきて、都合の悪い当時の各種資料を買いあさっていったとのこと。

書き方は、現地に何度も足を運び、生き残りを見つけ出し、各種資料を掘り出す様子と、それにより明らかになった話が入り混じって進められ、ときにそれが迫真性を高める一方で、ときに鬱陶しい。そしてもう一つ、そんな話がウソだというのはまあ、「そうだろうねえ」という感じに思えてしまうんだが、それは大きな意味がある話なのか、というのがよくわからなかった。この本を読んで、ぼくみたいな通りすがり読者でなく、この問題に関心をもって見ていた人にもおもしろいのか?

で、下のマーティンだと、この部分というのはほぼ二ページほどでさっと流している内容で、金正日白頭山で生まれたなんてのが捏造で、実はロシアで生まれてるんだと言う話は多くの研究者の定説だということでさらっと出てくるし、また脱北して韓国に出た人の談話の中にも、韓国ではすでにそれが常識、という書き方が出てくる。うーん。ルポとしてはおもしろいし取材プロセスもいいんだけど、書かれた内容自体は、あまり知られていない驚きの内容というわけじゃないのか。また、読者が公式の捏造金日成伝をかなり知っているという前提で書かれていて、ときどきわかりにくい部分がある。

これで少しモチベーションが下がって、見送ることにはしてみたけれど、悪くないので北朝鮮史に興味がある人は是非。



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