ボードロ&エスタブレ『豊かさのなかの自殺』:うーん、いろいろ要因が複雑ってことはわかったが……

豊かさのなかの自殺

豊かさのなかの自殺

  • 作者: クリスチャン・ボードロ,ロジェ・エスタブレ,山下雅之,都村聞人,石井素子
  • 出版社/メーカー: 藤原書店
  • 発売日: 2012/06/25
  • メディア: 単行本
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社会学の創始者の一人デュルケムは、19世紀に自殺の研究をして、貧乏人のほうが自殺が少なく、これは社会的なつながりが貧乏人のほうが強いため、という結論を出したそうな(恥ずかしながら、デュルケム読んでない……)。で、本書はいろんな条件を元に世界各国の自殺を調べ、いまではそんなことはなくて、貧乏人のほうが自殺多いよ、という。なるほど。

が、いろいろおもしろい。まず、国別に見ると、一人あたりGDPが高い国ほど自殺率は高い。そして旧ソ連東欧圏は、なんだか知らないが他の国とはまったく別の異様な突出ぶりを示して、ちょっとでも豊かになると倍々ゲームみたいに恐ろしいほど自殺率が上がる。そこらへんの原因をあれこれ検討はしていて、社会主義時代の自殺に対する考え方とか宗教的な話から自殺はプチブルの印だという烙印とか、いろいろおもしろいんだが。

で、インドや中国でも、経済発展すると自殺率ははねあがるとのこと。でもむしろそれは、豊かさが自殺をもたらすというよりも、経済発展や経済危機に伴う社会的な変化が人々を自殺に追いやるということらしい。

その一方で、同じ国、つまり同じような発展や危機にあった国の中で見ると、豊かな地方のほうが貧乏な地方より自殺は少ない。同じ環境の中では豊かさは自殺を防いでくれるとか。

で、その他宗教や文化資本、酒その他あれやこれやで、いろんな要因が複雑にからんできて……で、最後までくると、なんと言っていいかよくわからなくなる。うーん、いろいろありますですねえ、ということになりますが。あと、日本の自殺というのが何か変な色眼鏡で見られていることはわかった。ハラキリ、カミカゼの国と思われてるんですねー。その一方で、日本は豊かになったために自殺が減った (1950-1995)、希有な国である??! そうなのか。その一方で、1995-2000にかけてはあらゆる年齢層で自殺が増加。これはまあ不景気の反映と、著者たちは会社が持つ社会的な機能がリストラその他で弱まったせいだと考えている。

というわけでつまんなくはない。でもすかっと何かがわかったような気もしない。日本の話を外国に安易にもってきてはいけないし、外国の話をそのまま日本に適用できないこともよくわかったけれど…… いろいろ煮え切らないので、書評に採り上げるのはちょっとパス。でも個別の話は大変に興味深いし安易な即断もないので、興味ある向きは是非。



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