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レヴィ『ナバテア文明』:あのペトラ遺跡のナバテア文明について。ペトラだけじゃないのか。知らなかった。

ナバテア文明

ナバテア文明

ペトラ遺跡(インディジョーンズがショーン・コネリーと聖杯探しに行ったところ)を作ったナバテア文明についての解説書。ナバテア文明はペトラの他に、シブタとかいくつかでかい遺跡も残していて結構メジャーなんだって。だけれど、記録魔のユダヤ民族とはちがって文献記録があまりなく(かなり識字率は高くて羊飼いとかも落書きを残したりしているそうなんだが)、したがってその全貌がよくわからない。でも影響力はかなりあって、たとえば使徒パウロが例のダマスカスへの道中で改心したときのダマスカスはナバテア配下だったんだそうな。もともと多神教的な世界から、キリスト教を経てイスラムに支配され、やがてイスラムキリスト教のしめつけの厳しさから人が去るようになり、廃墟だけが残されたという。考古学的な資料から、こうした宗教観の変遷をあれこれ読み取るのは、各種遺跡の実態を見るのと並んで本書のおもしろいところ。

ぼくは遺跡や古代文明ものは好きなので、へえ、へえ、へーえ、と言いつつ楽しく読んだ。写真も豊富。ただ、個人的にはこの著者が、ナバテア文明に思い入れが強すぎて深読みしすぎているところがいささか閉口。たとえば

ナバテア人は生命の痕跡がわずかしかない外部世界に取り囲まれていた。視線を向けても反応しない生命の欠如した無機物の世界の日常的経験は超感覚的な存在を関知することへとかれらを導いた。ナバテア人の意識は人類と自然の生命の源泉となった領域、すなわち、生命力が存在し、彼らの感覚が目覚めさせられた実存的地平へ向けられた。

いやあ、そうだったのかもしれないけれど、そこまではわからないでしょう!

あと、ナバテア人の起源はイエメンで、それがレバノンあたりに移住してきたそうで、それを描いたのがソロモン王とシバの女王の遭遇だったというんだが、うーんちょっとすぐ納得する感じではないなあ。

訳者の解説は要領よいまとめになっている。別にナバテア文明の研究者ではないんだが個人的に入れ込んで、これも作品社に自分で持ち込んだ企画らしい。カラー写真だらけですごくコスト掛かっていて、3200円で元がとれるのかと老婆心ながら心配にはなる。古代文明ファンなら読んで損はない。



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