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アンダーソン『Makers』: アンダーソンは嫌いだが、Makersビジネス重視の視点はおもしろく、実践も伴っていてえらい。

MAKERS―21世紀の産業革命が始まる

MAKERS―21世紀の産業革命が始まる

個人的にはクリス・アンダーソンって嫌いで、ちょこっと流行を先取りしつつキャッチーにまとめあげて安直なキャッチフレーズつけてツイッターにおさまる程度の浅はかな大風呂敷に仕立てるやつだと思ってる。(こう書くと、「オマエモナー」という声は当然出てくるだろうが、ぼくは彼ほどキャッチーでも売れてもいないので、まあ許せや)。ロングテールとか、この命名だけだと思うし、「Free」なんてフリーソフトレッシグやその他散々紹介してきた身としては、いまさら何いってやがる、10年遅いわ、と思うし、まあそれが売れちゃってるのを見るとケッとか思ってしまう。さらに Share は……っていま見たら Share はちがうのか。

というわけでアンダーソンがMakersに手を出したと聞いて、しばらく前から Arduino いじくったり Make系の本とか紹介してきた身としては、半端なことしやがったら……という感じで手に取った(というか送られてきた)んだが。

まとも。悔しいが非常にまとも。Arduino 的なコントローラの話はあんまりしていないが、3Dプリンタ/CNCを中心とした話。そして従来のオライリー系の Makers本が、実際の物作りに注力しがちなのに対して、この本の特徴はそれを新しいビジネスと起業の手段として位置づけていること。21世紀の産業革命、という本書の副題はそこから。そして、そうやってあおるだけでなく、彼は実際にラジコン飛行機用の部品会社をこの方式で立ち上げ、成功させている。恐れ入りました。そうなんだよね、自分でハンダ付けやるには限界あるんだよねー。こまごました実感の記述から、著者がポーズだけでなく本当にハンズオンでやってきたのはよくわかる。

この分野は、たぶん今後数十年くらいは楽しいと思うのだ。70年代後半から80年台にかけて、有象無象のコンピュータ会社やソフト企業が出てきた頃の楽しさ、自作でメーカー系のものに余裕で勝てた時代のおもしろさが続くはず。その後また収斂していくのかなー。でもそれまでの間のいろんな試みは見逃せないものとなる。その立ち上がり方の展望としては、かなりよくまとまっているんじゃないか。

実は身近なところで起業家支援だなんだという今更感の漂う話が出ていて、もう10年前と何も変わってない。でももうかつてのインキュベーション設備とか、もはや意味がなくなりつつあると思うんだよね。ファブラボみたいなものをコミュニティレベルで作れるし。そうなったとき、どんな話があり得るのか――そろそろ、こういうレベルで産業に実地につながるような形でのMake系の意義も出てくるし、本書はそれを目ざとくとらえている。公共の支援も、そういうのに注目してほしいんだよね。もちろん細かいところではいっぱい外すだろうが、考え方のおさえはいいし、またいまは単なる「こんなの作っちゃった、おもしれー」と言っている Makers 系の諸氏が、こんな本を読めばもう一歩その商業化なんてことも検討するきっかけになるんじゃないか。アンダーソンは相変わらず嫌いだけれど、この本は悪くない。朝日新聞の書評委員会では、別の人が取っていったので書評されるかわからないけど、でも流れたら引き取るかも。

追記:一方でこんな話も出ている。3DプリンタでDRMね。はいはい、ありそうな話。



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山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.