川畑『脳は美をどう感じるか』:脳科学的に見たアート。

脳は美をどう感じるか―アートの脳科学 (ちくま新書)

脳は美をどう感じるか―アートの脳科学 (ちくま新書)

美術の見方を通じて脳の働きを見る本。布施英利が『電脳美学』なんかで少しこういうことを言いつつ、なまじ文芸的な素質があったもんで、なんかどこかで蟄居して変な方向にいってしまったのは残念だった。だからそれを新しい成果にもとづいてきちんとやってくれるのは大歓迎。

ぼくは前から、美術というのは基本的に脳の働きについての実験だと主張しているので、本書のアプローチはとても馴染む。とてもおもしろくさらさらっと読んだ。それだけに……ちょっと物足りない。美術の発達と脳の発達、イディオサヴァンみたいな話。うん、一通りある。ぼくとしては、アートと進化の話は知らないネタでおもしろかった。

でも、新書だから仕方ないとはいえ、ざっとした紹介にとどまっていると思う。最後も「これからもいろんなことがわかるだろう」程度で終わっているし。ジャクソン・ポロック竜安寺石庭にはフラクタル的な要素があるそうな。うん、じゃあフラクタル的な要素があればよい絵と言えるのか? フラクタルなら海岸線を見ていればよいのでは? そもそもそれが「アート」として鎮座していることに何の意義があるのか、つまり結局アートというのは何なのか――ピンカーが音楽について言うみたいに、単なる脳の情報処理発達の副作用なのか、それとももっと積極的な意味を持つのか――ぼくはこれだけのネタが出てきたら、少なくとも著者としての現時点での見方のようなものが知りたいなと思う。せっかく一般向けの概説書で、研究書みたいなゴリゴリの厳密さが要らないんだから、そういう野放図なところもほしいなあ。ということで、いずれもう少しふくらませてくれることを信じて今回はパス。でも、お手軽だし小ネタは満載。



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