読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

関『東日本大震災と地域産業復興』: 震災復興の歩みから日本産業の将来像を見通す

朝日新聞書評 書評

東日本大震災と地域産業復興 II: 2011.10.1~2012.8.31 立ち上がる「まち」の現場から

東日本大震災と地域産業復興 II: 2011.10.1~2012.8.31 立ち上がる「まち」の現場から

東北震災以来、もう二年近く。ニュースだけ見ていると、国としての初動の遅れ、空疎な文明論を並べて増税の口実にされただけの復興会議、さらに最近判明した復興予算の流用など、特に国レベルの対応のまずさばかりが伝わってくる。また一部では原発事故への過度の不安から、瓦礫受け入れなど復興への協力すら拒否しようとする人々までいるのは悲しいことだ。
だがもちろん地元の企業や人々は着実に復興を進めている。本書は震災の直後、東北各地の特に製造業を中心とした産業復興の様子を、中小企業へのたんねんな取材調査で継続的に描き出す。それも「がんばりました」の一時的な美談集ではない。多種多様な企業の事業復活が、震災から一年半のそれぞれの時点で東北全体の産業構造変化の中でどういう意味を持ったかを克明に記述する本書は、被災地全体の復興の歩みを見事に描き出している。
これが可能だったのは、著者が震災以前から二十年以上にわたり、東北の中小企業群を調査分析してきたからだ。関満博は、日本の大田区をはじめ中国、アジア、その他世界中の中小企業の集積を実際に足を運んで研究し、現場のダイナミズムに常に注目してきた。個別の企業が地域の中でネットワークを形成し、多様なニーズや急な変化にもその組み合わせで対応できることが、日本やアジアの新興工業地域の活力を生んでいる、というのが彼の定番の主張だ。
そして今回の本でも、その視点は健在だ。震災の被害は、地域の産業ネットワークを破壊してしまった。それは東北内だけの話ではない。震災直後、携帯電話や車など意外なものの生産が世界的にストップして、評者を含め多くの人は驚かされた。そうした企業のつながりが復興の突破口にもなった。その一方で、被災地域が以前から抱えていた過疎、高齢化、交通条件の悪さ、アジア移転といった課題への取り組みも、震災は加速させることになった。それを克服しようとする一次産業まで含めた産業の高度化、重層化、高付加価値化への懸命な取り組み事例は、それ自体が感動的だ。
だが本書の主張はさらに広がる。日本全体も過疎(人口減)と高齢化を迎えている。だから被災地復興の試みは、近い将来の日本産業全体にまでヒントを与える、と。個別事例をとばして、こうしたまとめだけほしい人は、同著者の『地域を豊かにする働き方』(ちくまプリマー新書)を読んでほしい。被災地の課題と取り組みは、実は日本人すべての課題でもあるのだ。本書はそれを理解させてくれる。そしてそれこそまさに、震災の教訓を風化させず、自分たち自身の問題としてとらえなおすための不可欠の視点だ。(紙面掲載 2012/12/09, 朝日新聞サイト)

地域を豊かにする働き方―被災地復興から見えてきたこと (ちくまプリマー新書)

地域を豊かにする働き方―被災地復興から見えてきたこと (ちくまプリマー新書)

コメント

美談に終わらない、製造業(だけでなく小売りサービス業も入っている)の復興の歩みを書いてくれているのは本当にありがたいし、それを継続的に出してくれる関満博と新評論には大拍手。中部から西では、まだ福島とか東北というだけで取引お断りというような人々がまだまだいるとか、気が滅入る話も多いし、ちょっと文中でも触れたけれど、東北の瓦礫といえばすぐに放射能と思ってしまう人々、果ては福島や東北に人が住むことさえ許されず、復興努力自体が何やら原発推進勢の陰謀だと言いたがる連中がいまだにいるのを見ると倒れそうになる。それを克服して産業が復活をとげているのは本当にすごい。
一方でこの本では、かれらが直面している大きな問題もちゃんと描き出す。発注企業がアジアシフトをする中で、これまで先送りにしていた選択――移転、新規の事業分野模索、最悪は廃業――といったものが浮き彫りにされてきたことも描かれているんだが、それが他人事ではない日本全体の話に結びつけられているのはさすがだ。
あと、やはり東北だと過疎、高齢化その他で追加投資をする価値がどこまであるか、というのは普通にみんな考えることだけれど、本書はそれ以前からの産業の動きをも示すことで、復興投資に意味があるのだ、というのを打ち出せているのがいい。とはいえもちろん何でもいいというわけではないよ。復興議論がそろそろ下火になって、きちんと振り返る余裕ができた今だからこそ読むべき本もある。

震災復興 欺瞞の構図 (新潮新書)

震災復興 欺瞞の構図 (新潮新書)


何が必要で、何が不要なのか、こうした本も読みつつ考えるべきなんだろう。この原田泰の本は、グレイザー『都市は人類最高の発明である』(NTT出版)に書かれていたカトリーナ台風復興支援批判と同じ視点で、助けるべきは困っているであって、困っている場所ではないのだ、という考え方を貫徹させていて立派。そこから、国を中心とした復興施策のだめさ加減と悪質な便乗ぶりを厳しく批判していて傾聴すべきものとなっている。マクロの政策(もちろんリフレ推進)もきちんと指摘していて非常にいいと思う。そうはいいつつ、国はグズだったけれど、自治体レベルでは融資はもとより細かい事業支援まで、かなり優れた地元産業復興対策をすばやく打ち出していたところも多い、というのもこの本で始めて知った。重要なのは場所ではないといいつつ、やはり支援も人々の活動も完全にフットルースではないという厳然たる事実もある以上、場所を無視して人だけ助けるわけにもいかないというのは頭が痛いところ。さらにはその自治体の取り組みにも温度差があり……

あと、cakes の書評でも書いたけれど、この期間の変化をビジュアルに知るには、初沢亜利『True Feelings』(三栄書房) をどうぞ。震災写真集はたくさんあるけれど、復興写真集は他にほとんどない。とんでもない瓦礫の横で平然と展開される日常の光景は実に不思議。関満博本の背景としてどうぞ。

True Feelings―爪痕の真情。 2011.3.12~2012.3.11

True Feelings―爪痕の真情。 2011.3.12~2012.3.11



クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.