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バウマイスター他『Willpower:意志力の科学』:うーん、ヤル気の科学よりいいなあ。

書評

WILLPOWER 意志力の科学

WILLPOWER 意志力の科学

文字通り意志力の本。ダイエットしようとして萎えたり、先送りしたり、やろうと思っていたのにいざやろうとするとつい別のことをやってしまったり、自分の意志力の弱さで泣きを見る場合は多い。どうすればいい? どうにかできるの?

ということで、これはぼくが訳したエアーズ『ヤル気の科学』と同じテーマを扱った本だ。ぼくも人間だし、自分の訳した本は当然熟読しているので、テーマが重なっているとついつい自分の訳した本をひいき目に見たくなってしまう。が……これに関する限り、このバウマイスター本のほうが優れている。

ヤル気の科学―行動経済学が教える成功の秘訣

ヤル気の科学―行動経済学が教える成功の秘訣

一つの原因が、エアーズ本はかれの創業したStickK.comの宣伝臭がすること。もちろんエアーズは意志力に関するいろんな知見を動員してこのサイトを作っている。だから両者が扱っているネタはかなり重なるし、エアーズがそれを本当に誠実に活用しているのもわかる。でも同じネタでも、エアーズ本だと最後のほうになると、それがいかにStickKに活用されていてすごいか、みたいな自慢になる。おかげで、意志力自体への関心がときどきお留守になっているような気がするし、また各種の研究成果紹介も我田引水めいた印象がときに出る。

でも本書はそういうのがない。そして各章ごとに、意志力を強くするための非常にコンパクトですぐに使えそうな小ネタをたくさん教えてくれる。たとえば、意志力にはエネルギーが必要、というネタがある。だから、何か意志力が必要なときには、ちゃんと喰ってグルコース値をあげたほうがいい。エアーズ本は、それでおしまい。ジュース飲んだりチョコ食べたりすればいい、と書く。でも本書は、それじゃだめだ、と述べる。砂糖は一瞬しか続かない。長い間グルコースが出るもの、タンパク質をきちんと摂ったほうがいい、と。こっちのほうが実用的でしょ?

計画をたてるといいよ、でも細かすぎるとダメ、という知見とかもすぐ自分で活用できる。そして何と本書には、意志力を本当に鍛えるトレーニングがある。それはほとんど簡単な運動をするとか、意図的に話し方を変えるとかいう程度のものだけれど、それができれば他のところでも意志力が強化される。そして、それを長く続けるためには、他人に見てもらうとか動機づけを考えよう。これは stickK もやっていることだけれど、その前のトレーニングの部分というのがおもしろいし説得力があるので、エアーズの本よりもその意味がわかりやすくなっている。

さっきも書いたように、ネタはかなり重なっているので、片方を読んだらもう一つを読むのは簡単。ささっと飛ばせる。そして、stickK.com の意義もたぶん両方読むとずっと理解しやすくはなるとおもう。でも、似たような本を二冊も読む必要もないだろうし、どっちか片方を選べと言われたら……ぼくはこのバウマイスター本のほうを薦めるだろうなあ。悔しいけれど。書き方も整理されていて、エアーズ本のような、中途半端な行動経済学の解説のような部分もない(でも、そこに書かれた内容の相当部分はカバーされている)。 StickK.com を使ってみようかなと迷っている人なら、『ヤル気の科学』もいいけれど、純粋に自分の意志力に興味がある人は、こっちをどうぞ。おもしろいし、たぶんすぐに役立つ知見がたくさんあるよ。



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山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.