センとバグワティがけんかしとるでー。

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なんか、センとドレーズのインドについての新刊が出て、その書評が The Economist に載ったのね。

Beyond Bootstrap(2013/6/29号)

で、この中でバグワティが引き合いに出されていて、バグワティはインドが経済成長のためにもっと規制緩和とか貿易開放とかしなきゃいけないよ、とこれまで言ってきたけれど、この本はその上ををいって…… とある部分に、バグワティはカチンときたみたいで、怒りのお便り。

インドは成長がんばろう(2013/7/13号)

アマルティア・センなんて、これまで経済成長なんかぜんぜん重視してなくて最近やっと口先だけ経済成長とか言い始めただけじゃん、それがおれたちより「上をいって」ってふざけんじゃないよー。センは所得再分配が成長に重要っていうけど、いままでのアジアなんて所得再分配が問題になるほど豊かでなくて、成長したから所得再分配が問題になってくるんだよ、あいつの議論は話が逆だ! とのこと。

で、センがそれに対して反論のお手紙。

経済成長大事って昔から言ってるよー。(2013/7/20号)

ジャグディシュくん何言ってんの? ぼくは経済成長は大事だって昔から言ってるよ。でもそれはあくまで生活水準向上の手段だし、また成長のためには教育とか保健医療とかが役にたつのは日本とか見れば明らかだから、逆じゃないよー、とのこと。

うひひひ、どっちもどっちなんで笑えるところ。センの議論は、特に開発経済とか世銀の開発援助とかに使われるときには、経済成長なんか目指すより人間の自由が大事とかその手の経済成長否定論とからめて使われたりするし、バグワティのいらだちもごもっとも。とはいえ、セン自身が経済成長を否定していたかというと、まあそんなことはない(が、play down していた面はあるんじゃないかしら)。この二人は昔からあまりそりがあわないようなので、生産的に話がまとまることはないけれど、センの主張をめぐる見方の縮図そのものでおもしろかったので。あと、こんなのにまで怒りの投書とは、バグワティはTPPとかでご機嫌ななめだったりするんだろうか。

追記

こんなところも参照。himaginary先生は目の付け所がさすがです。

センとバグワティの物語(7/11) および センの経済的帰結(7/12)

この投書欄論争が、単に一般論的な経済開発の是非という話だけでなく、インドの政策(および政党対立)に直接影響する議論だというのが的確に指摘されております。ぼくもそこまでは読み取れなかった。特に後者の「センの経済的帰結」は、ぼくはかなり重要な話だと思うので是非。上の山形の(いい加減な)まとめでさりげなく出てくる「でもそれ(注:経済成長)はあくまで生活水準向上の手段」という一言が、実はいろいろ含蓄あるところなんですねー。



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