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Stalking the Black Swan: 散漫な後知恵ばかり。

Stalking the Black Swan: Research and Decision Making in a World of Extreme Volatility (Columbia Business School Publishing)

Stalking the Black Swan: Research and Decision Making in a World of Extreme Volatility (Columbia Business School Publishing)

総評

 いま三くらい。各章とも、ブラックスワンに不意打ちされないための戦略を描くと言い、2008-9経済危機においてたまたまある因子に注目していたから傷が浅くてすんだという体験談や、もしあの時点でこの因子に注目していれば無傷ですんだ、という後知恵を並べており、それをその実例に基づく数値データやモデルで示している。
 でもいずれの例も、たまたま当たっただけの話。自信過剰か自信過小かなんてのは、後からの結果でしかわからないことだし、データに流されているのか情報に機敏に反応しているのかも、あとから結果を見ないと言えない。だから言われていることはあまり大した話ではない。認知科学や心理学や行動経済学などの話も、本質的ではなくただの刺身のツマ。
 書き方も、理論的な部分と実録的な部分との混じり具合があまり効果的ではない。「おれがレポートを書いたところ投資家から電話があって、すると市場はちょっとあがって、でも別の因子が入ってきたらこんどは下がって、はっと気がついておれはレポートを書き換えたら、その後金融危機がきて株価は暴落したんだが、ここには認知的不協和が働いていたんだ」といったリアルタイム再現物語のような書き方が、全体に浅はかな感じになっている。また、モデルの作り方にもあまり参考にならない。
 

各章のあらすじ

序文

ブラックスワン(非常にまれだけれど大きな影響をもたらすアノマリー)は起きるけれど、うまくモデルを使ったり心理学の知見を活用したりするとそれを避けやすくなるかもしれない。

1章

ファニーメイの株価は、過小評価されてると思ったんだけど、なんか素人投資家が「でも不安の声もあるよー」というので強気の評価を格下げしたら (!!あなたは素人投資家の戯れ言だけで動くようないい加減な評価をしてるんですね!)、結果的にもとのままの評価にしておくよりマシなことになった。変わりやすい環境では、トレンドだけで見ていると足をすくわれる。世間の評価は合理的な判断の集合だったりするから、空気に流されるといいことあるよ。

2章

クレジット会社企業の株価を評価するとき、確率一本で考えたら結構強気でいけたけど、確率ツリーを書いて場合分けしてみると、見た目よりやばいのがわかった。確率ツリーはいいよー。

3章

意志決定においては、自信過剰も自信過小も命取り。自分は市場がわかってるとか、前回の予想がはずれてがっかりとか、そういうのはよくない。あと過剰に理論に頼ったり、複雑なモデルにかまけて全体像を見失ったりするのも危険。

4章

情報洪水に流されるのは危険。必要な情報を能動的に取りに行くのと、入ってくるデータに受動的に流されるのとはちがう。

5章

人はいったん思い込むと、それを否定する情報が山積みになっても頭を切り換えられなかったりする。チェンジブライドネスとか認知科学の知見がそれを裏付けている。情報に機敏に対応するのがだいじ。

6章

情報の非対称性。企業から出てくる情報は、悪い話は隠されていることが多いので鵜呑みにしないこと。

7章

ブラックスワンは後付では当然に思えるけれど、事前だとどの因子が効いてくるかわからないからみんな不意打ちをくらう。よいモデルを重要な因子にマッピングすることが重要(それができないから苦労するって言ったばかりじゃないか!)

8章

モンテカルロ/シミュレーションはなかなか強力で、おれも使って役立ったことはあるけど、小確率のブラックスワンには効かないこともあるのでご注意。(いや注意できるんならしますけど。どうやって? その注意の仕方を示唆するのが本書のポイントじゃないの?)

9章

いろいろあっても、最後はエイヤの意志決定。みんなが同じことをやっているから自分はちょっとやめようという配慮が重要。(第一章では付和雷同もいいかもとおっしゃってますが、どっちにします?)

(2009/09/01)

コメント

ここ数日、ミャンマーのインターネット事情がちょっとばかりよいので、ハードディスク整理のついでに出てきた古いファイルを次々にアップ。これは昨日に続いて昔、査読を頼まれた本の査読書だが、しょせんリーマンショックと『ブラックスワン』便乗本ですな。もうきちんと書き上げる手間もいやなくらいの駄本だった。トレーダーの自慢話なんてクソの役にもたちません。著者はモルガンスタンレーのアナリストかなんかだったらしいけれど、もう覚えてない。投資銀行なんてしょせんこんないい加減なもんだというのがわかるという意味では――でもそんなの、わざわざ教わらなくても。

で、二度と見ることもないだろうと思ったんだが……ところがなんと、邦訳が出てるんですね。びっくらこいた。

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