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ニコニコ学会ベータでの失望 (12/21)

ニコニコ学会ベータというのがあって、いろいろ学問チックなことをニコニコ動画的な形でみんなでつっこみ入れながら紹介したり討議したりしましょうという代物。それの第五回シンポジウムがあって、お呼ばれしたのででかけてまいりました。お呼ばれといっても、妻の分はちゃんと払ったので無料ではなかったんだけど。

http://niconicogakkai.jp/nng5/

さてぼくはこの日の朝にミャンマーから帰ってきたばかりなので、体力的に少しきつかったのではあるけれど、ちょっとはおもしろい話もきけるかと思って六本木まで出かけたわけです。ニコファーレは、入り口がわからなくて大変苦労して、結局通用口から入ることになりましたよ。

前半は渋谷慶一郎インタビュー:でもみんな賢しらな顔をしたいだけね


一応お目当ては最初にあった、堀江貴文ことホリエモンが出るという座談会。着いてみると、すでに座談会は始まっていたんだけれど、でも前半は初音ミクのオペラを作った渋谷慶一郎を囲む会で、ホリエモンはまだ出てなかったので、とりあえず安心。だが……

聞くのが苦痛だった。壇上の人々が何を言っているのかぼくはさっぱりわからなかったし、わかりたいという気にもならなかった。個別の単語はわかるんだけど、それが論理的にまったくつながっておらず、そしてそれを各人の発言も論理的にまったくかみ合わず、単にその単語の表面的なつながりだけであちこちふらふらするだけなんだもん。

でも、何を言いたいかはわからなくても、何をやりたいのかはよーくわかった。登壇者みんな、(渋谷慶一郎は例外として)、自分が賢そうな顔をしてみたいだけなのだ。おそらく登壇者も、自分が何を言っているかわかっていないはず。でも、みんなそれを「わからない」というのがこわくてなにやらわかったような顔をし続ける。ちなみに、ニコ生でついていたコメントも、半分くらいの連中はちょっとした言葉尻で知ったかぶりをしたい連中が半分、わからないことがなにやら深遠だと思っているバカが半分、あとの半分は正直にわかんないと言える連中だった。

たとえば渋谷慶一郎は、音楽において「縦の時間」と「横の時間」があって、横の時間より縦の時間を重視して云々、と言っていた。縦の時間ってなんですか〜。それでも渋谷慶一郎は、何か言いたいことがあって、それを表現する手段としてこういうへんちくりんなことを言い出したんだろう。そして、聞いているうちに、縦の時間というのはなんだか音の厚みみたいなことを言いたいんじゃないか、というのはうすぼんやりと伝わってくる。

でも、壇上の人々がそれを頭からわかっていたはずはない。でも、「それって何ですか」と質問する人まったくなし。みんなふんふんうなずいてる。わかったような顔をしたいだけね。この時点でぼくはかなーり失望していた。その他の部分でも、渋谷慶一郎が、要領を得ない質問をされて苦し紛れに変なことを言い出すのは、それなりにおもしろい部分も多少はあったんだが……


が、前半で渋谷慶一郎は退席。そして本当の衝撃は、後半にあった。

後半:学歴差別のむきだし


後半はホリエモンがやっと登場。

ホリエモンは、ステージ慣れしているので適当にニコ生のコメントに絡んだりして、今一つ愛想のなかった前半に比べてかなりステージは賑やかな感じ。でもそこで池上高志が(この人は座長としているはずなのに自分ばっかりしゃべって、まずその時点でダメ)、いきなり何の脈絡もなしに、ホリエモンの大学についての見解にかみつきはじめた。

堀江キブンはどっかで、いまの大学なんかダメで、何の役にたつかもわからんことばっかやってるような仕組みを、公的なお金で養うというのはもう成立しないだろう、という話をしているそうな。だからもっと自分のやってることを宣伝し、商売していかないとダメだ、と。

それに対して、池上高志は、いや大学は重要だ、とわめきたてるんだが……なぜ大事なの? 池上は自分から噛みついたくせに、それに対する回答をまったく持ち合わせていないのだ。大学は変なやつ、商売のことなんか考えてないやつがいるからいいんだ、とがなりたてるんだけど、もちろんそれはホリエモンに対して何の答にもなっていない。確かに、大学で既得権を持ってるあんたはいいよ。でも納税者に対して、その変なやつどもを養えと言えるのか、ということだ。ホリエモンはまさにそう反論していた。

ちなみにこの座長だった池上高志は、まさに何の役にもたっていない研究者のようだけれど、なぜか東大のなんか研究所の所長さんをやっているそうで、いいご身分です。この人が変なやつなのはよくわかった。だから、変なやつを養うのが大学の意義というのは、この人にとっては我田引水、オレを養え、ということなんだ。そして、納税者としては、こんなやつを養うのにオレの税金が使われているのか、と思ってしまうのは人情ですわな。ぼくはこいつががなりたてるのを見て、東大に寄付をしたのを後悔したほど。ホリエモンの論点を際立たせる身を張っての名演技……ではたぶんない。単なるXXXX。

さて……ぼくはこの話に少し興味がある。そして、これに対する標準的な答えも知っている。それは、何が役にたつかなんてわからない、というものだ。すぐに役に立つ知識なら、商業的に企業がR&Dの中でやることもできる。でも基礎研究は、少し遠い。ネットで活用される暗号研究に役立った素数研究だって、一般相対性理論だって、研究している当初は何の応用もなかった。でも、それが半世紀たてば少しは応用もできる。だからこそ、すぐに商売には結びつかないものを公的にやろうという理屈もあるわけだ。

もちろん、この主張に対して反論もできるはず。もちろん。でも、一応この問題は昔からずっと取りざたされてきた話だ。ぼくもそれに興味があるからこそこんなものを訳したりしている。

フレクスナー『役立たずな知識の有用性』 (1939) pdf, 54kB

だが……ここで池上が何を言い出したかというと、「大学は無意識を鍛える場だ、無意識が鍛えられることでその人物が変わるのが重要なんだ」と。役に立つ知識なんて専門学校と同じだ、でも専門学校卒の連中なんか無意識が鍛えられてないからだめだ、30年たったときにその無意識で差が出るんだ、と。

無意識が、鍛えられてない……??!!??!

ぼくは、この壇上の人物が何を言っているのかさっぱりわからなかった。そしてホリエモンもそれに対し、一体お前らが何を言っているのかわからない、と何度も繰り返した。無意識を鍛えるって何のことだ、と。30年してどんな差が出るというんだ、大卒と専門学校卒とが根本的にちがうって何のことだ、と。オレはそんなこと思ったことない、と。

その通りだと思う。ぼくもそんなこと思ったことない。

が、常識人だと思っていた江渡浩一郎が、それに同調しはじめたのにはさらに驚いた。「いやあ、大学卒と専門学校卒の人は全然ちがいますよ。絶対ちがいますよ」

……唖然。

ホリエモンはそれを受けてさらに、いや一体お前らが何を言っているのかわからない、と何度も繰り返した。

ぼくも、かれらが何を言いたいのかはわからなかった。でも、彼らが本当に思っていることはわかったと思う。大学行ったくらいで人間が根本的に変わる、学士様がえらいと思ってる人たちなんだね。

いやあ、このニコニコ学会という試み自体、まさにそういう、大学だけがえらいという変な特権ヒエラルキーを廃してもっと開かれた場を作ろうというものじゃなかったのぉ?? まさにホリエモンの問題意識を反映した、新しい学問なり研究なりの場を作ろうという試みじゃなかったのぉ??? 低学歴ニートの無責任なニコ動コメントでも意味があるんだというのが発想の根底にあるんじゃないの? それが、大学行ったやつは人間のできがちがうとかいう話であるなら、いったいここに何の意味があるのやら。そして、そうした差別的な話を平然と口にできるということ自体に、ぼくは恐怖と嫌悪をおぼえたよ。

ぼくはその時点で、もうこの放談会が聞くに堪えないと思って、あと20分くらい残っていたけれど席をたった。一家で一万円も支払ったのに、もったいないといえばもったいない。が、気分は以下のThey Might Be Giants の名曲通り。

たぶんシンポジウムのその後で、あの二人もさすがにまずいと思ったんじゃないかとは思う。そんなつもりじゃないとか、あれは別の意味で云々とか、政治家の失言じみた言い逃れもあったんじゃないかな。でも、そんなものをチェックする手間もかけようとは思わない。ぼくはあれが彼ら二人の本音なんだと思う。2チャンネルでよく見かける学歴厨の一種なんだ。このニコニコ学会も、学問や研究を民主化し、もっと開かれたものにするものかと思っていたけれど、なんか根底にある発想はちがうみたいね。とっさの時には人は本音が出るものだけれど、そういう本音が聞けたという意味ではよかったのかもしれないが、正直言って知りたくなかった本音だった。

ホント、ホリエモンがいろいろめちゃくちゃ言って、残りの人がそれを抑えつつ生産的に話をつなげるのかと思ったら、ホリエモンだけがまともな常識人で、残りの人々の異常性が際立つとは。驚いた。本当に驚いたよ。

付記

念のため書いておくと、これは「ニコニコ学会ベータでの失望」であって、「ニコニコ学会ベータへの失望」ではない。この1.5時間だけきいて、ニコニコ学会すべてがこのような差別的で無内容な代物だと主張しているのではまったくないので。これまでのやつについて少し噂も聞いていて、かなりおもしろそうだと思ったからこそ、今回もわざわざ足を運んでみようと思ったんだし、今回もその後のセッションはおもしろかったらしいね。今後のご発展を(本当に嫌みなしで)お祈りするものではある。その一方で、ニコニコ学会の主要人物の一人である江渡浩一郎がああいう発言を壇上でするのを見てしまうと、そのイベント自体への見方もそれに影響されてしまうのは人情でしょう。



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山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.