ケインズ「お金の改革論」

エンゲルスからちょっと寄り道して、若き日のケインズケインズがマネタリストでもっと明解な文章を書いた頃の代物の全訳。

まだ「ケインズ経済学」にはなっていない。その一方で、ブレトン=ウッズ体制につながるアイデアの萌芽は出ている。貨幣数量説全面支持の本だと言われるけれど、三章読むと必ずしもそうではないね。基本は貨幣数量説だけど、でもきちんとその通りにいかない場合もたくさんあるから注意しようね、というのが延々書いてあって、貨幣数量説をボコボコに否定した『一般理論』と、実は立場的にそんなに遠くないように思う。注意しようね、の部分を細かく詰めると、一般理論でのお金の話になる。

提言とかは、なにせ金本位制時代のものだからいまは歴史的な興味だけになるけれど、「長期的にはわれわれみんな死んでいる」という有名な、ぼくのお気に入りのせりふが出てくる一冊。(pdf の p.33)

お金の改革論 (pdf 430kb)

当然邦訳あって、『貨幣改革論』とか『通貨改革論』という邦題になっている。もちろん一切見てません。金本位制時代のテクニカルタームとか概念とかは、いろいろわかりにくいのでまちがっている部分もあるかとは思う。bank note とcurrency note というのが出ていてどうちがうのかよくわからなかったけれど、bank note は通常の紙幣(日銀券みたいな)で、currency note というのはイギリスの政府が金貨回収のためにちょうどこの執筆の頃にだけ出していた政府紙幣なんだって。


あともちろん、田中秀臣コメントにあるとおり、インフレやデフレが社会の階層ごとに作用がちがうという詳しい検討。どっちもあまりよくないがどちらかといえばデフレのほうが悪い、というリフレ議論の元祖です。金本位制復帰を含む、デフレしばき論者たちへの反論はいまも通用する。特に「よいデフレ」論は妄言だと一蹴。

付記 (3/19)

227thday氏から、詳細なコメントおよびご提案をいただいた。ありがとうありがとう!! ご指摘の点はすべておっしゃる通りです。すでに上の pdf には反映済み。



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