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Jacques 『When China Ruled The World』: 中国は西洋に対抗する文化経済的な存在となる――ふーんそれで?

When China Rules The World: The Rise Of The Middle Kingdom And The End Of The Western World

When China Rules The World: The Rise Of The Middle Kingdom And The End Of The Western World

長い本もいろいろで、何か非常に意外なことを言うためにかなり多くのデータや分析を積み重ねる必要があった、あるいはいままで比較されていなかったものを対比させるために長くなったけど、それをやることでまったくちがう知見が開けた、というものがある。

でも、単に著者がいろいろ勉強しました、あれもあります、これもあります、どうですこんなに手を広げてみましたよ、いろいろありますねえ、と言ってそれで終わってしまう本もある。特に目新しい知見も出せずに広く薄くざーっとたどっただけの本。結論は、それだけだと本人もヤバイのがわかっているので、だいたい以下のような話になる。

  • XXは多様であり容易に結論は出せず、単一の方向に向かうとも限らないが、ただ一つ確実に言えるのは、将来は確実に変わるということであり、この変化に取り残されるものは時代に勝ち残れないということである!(欧米系の本とかビジネス本とか)
  • このようにXXにはいまださまざまな不明点が残っており、なんとも言えない。今後さらに注目していきたい。(日本のにありがち)

どっちも、何も言ってないに等しいので、こういう本はそれだけであまり読む意味ねーな、とわかる。

この本は、残念ながらこの後者のほう。

経済的にも軍事的に政治的にも中国の存在感が増してきています、というだけの本なんだよね。すっごい分厚いけど(840ページ。ピケティより分厚いんだぜ!)。分析とかもアレだなあ。日本が鳩山外交を継続していたら、中国との仲もよくなってアジア全体の存在感を高めただろうとか、日本が軍国化を進めているとか、韓国の分析(といえるほどのものではない)とかもかなりレベル低い。中国の高齢化とかについてももっと分析ほしいなあ。

で、冒頭部分では、中国は経済的に上昇しているけれど、それだけじゃない、それは中国が西洋化するということではなく、独自の文明観と文化を持った存在として台頭するのだ、というんだが、じゃあ西洋化でない独自の文化としての中国というのはどんなものか、という点で、本書はきわめてアレだ。なんか朝貢貿易復活とか言ってるんだけど、正気ですか?

いろんな指標を見れば、中国が上がってきていることは示せるだろう。経済力もあがりました、生産も増えました、消費も増えました、資源輸入も増えてます、あちこちと資源外交してます。中国語は人気が出てきたし、中国の大学も存在感出てきたし、中華料理も普及したし。で、こちらとしては台頭した中国がどうするんでしょうか、というのを知りたいわけだ。ところが本書は、中国は完全に西洋化せず、独自の存在感を保つ、というだけでそれ以上のまともな分析がまったくない。朝貢貿易とか儒教文化の特徴をとかいうけれど、それ以上のものはない。かつてのアメリカ型資本主義のように新しい資本主義のあり方を中国がもたらすというんだが、それは何かというと、中国は国内市場がでかいので規模も多様性も様々だろうし、ほらいろんな企業が台頭してますよ、というだけでおしまい。それだけじゃなあ。だいたい朝貢体制っていうなら、もっといろいろ中国がエサをやれよ。貢ぐ恩恵がどの国も何もないぞ! ぼったくり価格でいろいろ売りつけるのは朝貢じゃないぞ!

長い本だけど読む価値あまりなし。

邦訳あるのね。ご苦労さま。

中国が世界をリードするとき・下: 西洋世界の終焉と新たなグローバル秩序の始まり

中国が世界をリードするとき・下: 西洋世界の終焉と新たなグローバル秩序の始まり

中国が世界をリードするとき・上:西洋世界の終焉と新たなグローバル秩序の始まり

中国が世界をリードするとき・上:西洋世界の終焉と新たなグローバル秩序の始まり

あらすじ

はじめに:Change of Guards

途上国が貯蓄率とか生産高とかのびてます、西洋没落で途上国がのびます。

第一部 西洋の終わり

西洋はかつて台頭しました。日本は明治維新以来独自の発展をとげましたが完全に西洋化はしませんでした。中国の歴史はこんな具合で、最近台頭してきましたよ。で、近代性というのは日本を見ると完全な西洋化ではないようだから新しい形が出てくるんじゃないか。

第二部 中国の時代

中国は経済的にすげー台頭してきた。中国は、国民国家ではなくシナ文明がいろんな民族に引き継がれてきた存在であり、むかしから中原/中華メンタリティがある。東アジアでいろいろよくも悪しくも存在感を増している。世界的にアフリカや南米とも資源外交してる。文化的にも存在感を増してる(大学とか中華料理とか)、新しいメガシティもたくさん出てきて新しいバスとかの実験もしちゃってるしすごいよ。

結論:中国の8つのちがい
  • 中国は民族国家というよりは中華文明を中心とした国家
  • 東アジアでの関係は朝貢体制になる
  • 民族と人種のとらえかたが独自で、単一民族幻想みたいなのがある。
  • 規模がでかいので他の国とちがう
  • 西洋のような教会とか商人社会とかがないので政府が横暴
  • 変化がはやい
  • 共産党がどうなるかわからない
  • 先進国と途上国の両側面を持つ

だから西洋は衰退して中国が台頭する。

補論:世界金融危機

みんな中国の成長持続があやういとか言ってたけど、金融危機で危うくなったのは西洋のほうだったじゃん。中国すげー。




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山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.