コツウィンクル『バドティーズ大先生のラブコーラス』:コツウィンクル最高傑作だと思う。

バドティーズ大先生のラブ・コーラス (1980年) (サンリオSF文庫)

バドティーズ大先生のラブ・コーラス (1980年) (サンリオSF文庫)

サンリオSF文庫総解説で、やりたいなーと思いつつできなかったのがいくつかあって、その一つがこれ。最初に読んだコツウィンクルがこれだというのはお互い(というのはぼくとコツウィンクル)にとって幸福だったのか不幸だったのか。ぼくはこの一冊で、コツウィンクルというのは天才スーパーコメディコミック作家なのか、と確信して、その後続刊予定に入っていた『ドクターラット』とかを心待ちにして、『ホット・ジャズ・トリオ』も、こんなもんじゃないはずと思って、そして最近出た『ドクターラット』を読んで、はたと思い当たる。『バトディーズ大先生』のほうが例外的なのかもしれない、と。コツウィンクルって、実は結構まじめだったりする?

いや、まじめなだけじゃなくて、わけのわからない作品は他にもあるんだけどさ。

まあ正直いって、割り当てが来たら何を書いたかと言われると、なんか考えてしまうところだ。スーパーホットドッグ使命で、携帯扇風機を持たせた家出女子高生のコーラス隊を作ろうと思いついた、汚部屋ずまいのヒッピー生き残りホーレス・バドティーズが、当時のニューヨークのグリニッジビレッジに生息する汚いイカレたペテン師インチキ連中とまったくどうでもいいやりとりを続け、それでもなにやらコーラス隊を作ってしまいながらも……という話なんだが、まあくだらない。とにかくくだらない。行き当たりばったりで、書く方も何も考えてないくらいくだらない。

だが、それがいい


そしてぼくにとってこれが想い出深い理由がもう一つあって、当時(というと30年前なのねー。遠い目)これを読んで爆笑し、つきあっていた女の子に「これは傑作だから是非とも読んで!」と渡したら、数日して返してよこして、「どうだった?」と尋ねたら一言。「誤植が多い」。

それを聞いてぼくは即座にそいつと別れることにした。この傑作を読んで、それしか言うことねーのかよ! 氏ね!


ここから判るとおり、当時のぼくは物事の優先順序というものをまったくわきまえていなかったのだった。

彼女はいまだに、そんなことが原因だったとはまったく思ってもいないと思うけれど(それにその後さらに紆余曲折あったからなあ)。
そういえばどっちが先か忘れたが、タルコフスキーノスタルジア』を別の女の子と見に行ったら、彼女は始まって十分でグースカ眠りやがって、こっちはうるうる目に涙しつつ、横の子をにらみつけて、おまえ許さん、と思っていたら二時間くらいのところで目を覚まして曰く「まだやってんの」

その一言で、やはりぼくはその子とはとうていつきあえないと確信して、二度と連絡しなかった。


やはり当時のぼくは、物事の優先順序というものをまったくわきまえていなかったのだなあ。


でもその後ずっと、あの本にそんなに誤植があったのかと思って、いつかきちんとチェックしようと思って、でも開くたびにまた(もうゲラゲラは笑わないけど)ニタニタしつつ読みふけってしまい、まるで誤植なんかには気がつかないんだが、そんなにあるんだろうか?

サンリオSF文庫総解説

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