日銀黒田セミナー@『公研』:すばらしいが、うーん、楽観的だなあ。でも産業界だけにレクチャーとはずるい。

先日、池内恵と対談(というかインタビュー)をしたので、この『公研』という雑誌が毎号送られてくるようになって、面白い記事とか結構ある。電力会社中心の、産業界だけが見る雑誌のようなんだけれど、もっと広く読まれていいんじゃないかと思うんだけど。


その最新号が送られてきて、表紙を見てぼくは一瞬、見たものが脳で処理される前に「あれ、これってどっかで見た名前だけどだれだっけ」というステージから「いやまさか、そんなはずはないよな」というのが何度か往復するような、めまいのようなものを感じてしまいましたよ。黒田東彦って……確か日本銀行とかいうところの総裁かなんかやってる人に、同姓同名の人がいたけど、まさかねえ。金融政策の話をするというけど、まさかねえ。


そのまさか。


いやあ、金融政策運営について、産業界だけにこういうレクチャーしてあげるというのはずるいっすよ。こういう話は、経済全体に関わることなんだし、ちゃんと日本人(それ以外も)すべてが見られるようにするのが筋ってもんでしょう。

というわけで、公益のため筋を通します。

黒田東彦「最近の金融経済情勢と金融政策運営」(『公研』2014年12月号 pp. 52-77, pdf 1.45MB)

読むと、安心できる部分と不安をあおる部分が混在。まず、日銀として景気の動向についての見方や金融政策についての考えが揺らいでいないという点は、心強いものではある。

その一方で、消費税率アップの影響についてのあまりの楽観論は、前から不安だったし今回もその強気ぶりには愕然。2013年9月の東大セミナーのときには、事前だったからまだ強気でもわかるけれど、これは 2014/11/21 に行われたセミナー。この時点でこの強気か! 「一時的」ですか! 改訂値の落ち込みをどう評価するか、是非ききたいところ。

それでも、その強気の一方で、質疑応答での設備投資に関する見方が非常に弱気なのはおもしろい。たぶんヤバいというのは知ってはいたんだろうとは思う。それなのに、何やら消費税率10%引き上げに対して最後まで楽観的だったのは、どう考えたものやら。

ともあれ、日本経済を左右する(それも今はいつになく左右する)金融政策なんだから、このレベルの話はもっと広くやってほしいところです。なんかこの手の内密お座敷みたいなのをあちこちでやってるの? いや日銀が地方銀行向けにいろいろセミナーやるのは知っているけれど。なんかそれはずるいなあ、という感じ。

 

そうは言ったものの、この『公研』、冒頭にならぶコラムが本当にバカばかりでアベノミクスは大丈夫かとか日本は借金多くてダメとかハイパーインフレとかそんな連中ばかり。本誌の読者層の認識もそんなものだと思われ。それに対して、少なくともいまの日銀のやっていることについてきちんと説明が行われるというのは、決して悪いことではない。





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