Obstfeld はやっぱオブストフェルド、だってさ。

一部の方はご存じだろうけれど、こんな本の翻訳を終わっていま怒濤のゲラ直し中なのだ。

クルーグマン国際経済学 理論と政策 〔原書第10版〕 ハードカバー版

クルーグマン国際経済学 理論と政策 〔原書第10版〕 ハードカバー版

で、ご存じの方は当然ご存じだろうけれど、これは題名にもかかわらず、クルーグマンの単著ではなく、Krugman & Obstfeld の昔からの名教科書で、しかも今回の第10版はそこに Marc Melitz も入っているという豪華な布陣。クルーグマンは、比較優位とヘクシャー=オリーンだけにとどまらない、規模の経済と多様性選好も貿易の原因となることを定式化した、新貿易理論の創始者だし、メリッツはさらに、それまでの国レベルでしか描けなかった貿易理論を、企業の異質性とそれによる産業の生産性向上が貿易の源泉になることを定式化して、企業レベルに(やっと)落とした、新新貿易理論の創始者。しかも、結構面倒なこの新貿易理論と新新貿易理論を、入門(よりはちょっと上)の教科書で、簡略化しつつも手を抜かずに説明しきっているという、なかなかの力作。新新貿易理論をそれなりに説明してる本は、日本ではいまのところ田中鮎夢の本くらいじゃなかったっけ?その意味でも画期的。

(付記:若杉『国際経済学 第3版 (現代経済学入門)』(岩波書店) もかなり詳しく触れてることにその後気がつきました)

そしてもちろん、貿易編だけでなく国際金融をあわせて論じているのがこの教科書の大きな売り。これまた、ここ数年の金融危機、ユーロ危機のおかげで、本当に重要な時事トピックになり、それを理解する理論的基盤として完璧。その部分を主に担当しているMaurice Obstfeld は、去年からIMF 主任エコノミストさまであらせられる。すげー。

さてこれまでの版も邦訳はあったんだけれど、必ずしも翻訳に恵まれなかった面はある模様。あと、原著の版元ピアソンの日本での体制があれこれ動いて混乱したとばっちりも受けている。もったいない。ということで今回満を持しての邦訳。翻訳も万全。まあ嫌う人もいるだろうけど、それはあくまで趣味のレベル。意味のとりちがえや構文ミスはほぼないはず。

で、出すに当たって、クルーグマンとメリッツは問題ないんだけど、問題はObstfeld. これ、これまでの邦訳だとオブズフェルドと表記されてたんだけど、オブストフェルドだろうという人もいて、はっきりしなかった。

で、はっきりしないのは嫌いなので、白黒決着つけるべく、当人にメールいたしました。が、天下のIMF主任エコノミスト、返事くるわけねーよな、と思いつつ。

ところが……きた!!!!

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いやあ……それも即答レベル。驚いた!

うれしい一方で、天下のIMF主任エコノミストでしょ??!! 即答って何?しかもこんなどこの馬の骨ともしれぬやつの、ホントどうでもいいメールに? ひょっとして実は暇?

……なーんて、そんなはずなくて、欧米の先生方は昔のノビーとの生産性論争のときもそうだったけど(あとその後、レヴィットダブナーが話題にしてたトーマスシェリングのくだらないトリビアを本人に確認したときもそうだけど)、みんなホントに親切で、きちんと聞くときちんと答えてくれるんだよね。すばらしい!

ということで、オブストフェルド、がご本人の選好ということで、それにあわせます。でもこういうくだらない話でも、日々不明点は明らかにしていこうぜー。人を煙に巻いて小銭貯めるのはやめようぜー。