長谷川英祐『働かないアリに意義がある』

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

前に、同じようなタイトルの「働きアリの2割はサボっている―身近な生き物たちのサイエンス」を見たら、サボっているという話だけを紹介してその理由は説明してくれず、とても不満だった経験があり、これもそういう本かと思ったら、ちがった。ちゃんとサボるアリの意義を説明してくれる。

それ以外にもアリの巣の創発性や機能分担、フェロモンの働きから、血縁淘汰と群淘汰論争なども紹介。というより後半三分の一で、血縁淘汰と群淘汰の話だけを整理していてびっくり。安易に小ネタ紹介しとけばいいや、という甘い考えの新書とは一線を画す本だとわかる。

ちなみに最後(p.184) にある、教科書や本は、何が書いてあるかよりも何が書いていないかを見ないとだめ、という著者の意見にはハゲ同。これは著者のいうような研究者だけでなく、ふつうの本を読む場合でも、それ以外のときでもまったく同様。

この本はこのシリーズの中でかなりよく売れているそうだけれど(手元にあるものですでに6刷)、すばらしいこと。八割のアリは働かないという話についてみんなが思う疑問に答えたうえで、もっと重要な話につなげてまとめる。アリなど社会性昆虫の話でもあり、また進化論の深めの話にもなっていて、利他行動その他についても学べるし、非常にお買い得で勉強になるよい本*1

そういえばこの本、なんか記憶があると思ったら、昔shorebird書評でとりあげられていて、中身がおもしろそうだったので読もうと思ってたんだよね。そこでもほめられているとおり、進化論的にもまっとうで凡百の誤解ダーウィニズム本とはレベルがちがう。



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山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.

*1:なお、昨日酷評した本ばかりで今日はほめてる本ばかりになっているのは、昨日はまず山をさっさと減らしたかったので、よしあしをすぐ判断できそうな安易に見える本を率先して選んだから。予想通り、安易に見える本は安易な読み捨て本だった。アリと同じ(いやそれ以上)で、本も七割以上は無意味。送ってもらう時点でフィルタはかけるけれど、それでもタイトルだけ見て送ってもらう本の半分は捨て本。これは朝日の書評でも同じこと。