高木徹也『なぜ人は砂漠で溺死するのか?』

ガキの頃に、学研とかの「これでキミも名探偵! 少年推理謎解きブック」みたいな本を読んでいたときに「死体が砂漠の真ん中でひからびて発見されたが、死因は溺死だった。このトリックをきみは解明できるか!」みたいなのがあって、答は、砂漠の真ん中で洗面器に張った水に顔を突っ込ませて殺した、というものだったんだよね。あの話かー、と思って読み始めたら、全然ちがった。

法医学者が、まず死亡診断って何というところから入り、死亡届がどんなふうに書かれるか、さらにはいろんな死因についてあれこれ、著者自身の体験を交えておもしろく記述する本。法医学者だから職業柄、変な死体が次々に持ち込まれるので、エピソードは楽しい。すごく深い考察があるわけではなく、変なものをケツにつっこんで病院にかけこんでくる人とか、腹上死とか突然死とか、手の込んだ自殺とか、下世話狙いだけどなかなかおもしろいよ。少し前にコメントした死体の話とあわせて読むといいんじゃないかな。

ただ、タイトルの話は全体とほとんど関係なくて、単に人は意外な死に方をすることもある、というだけのエピソード紹介でしかなく、著者の仕事に直接関わりのある話ですらない。「さおだけ」みたいな効果を狙ったんだろうが、ミスリーディングで、たぶん潜在的な読者をかえって逃していると思う。



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