ヴェルメシ「解き明かされた死海文書」:え、使徒襲来の話はどこ??

解き明かされた死海文書

解き明かされた死海文書

死海文書の完全英訳版を完成させた人の書いた、死海文書の発見と解読発表をめぐるエピソードと、それにより何がわかったかの説明。

前半は発見をめぐるいざかいと、その後の利権や研究者の嫉妬その他のもめごとから、どうやってまともな研究がすすむようになったか(文書をCD-ROMで全部公開してだれでも研究できるようにし、競争させたのがよかった)といった話。うーん、まあおもしろいんだけど、外から見ると内輪もめでしかない。当事者だった著者の筆致は、恨みつらみも全開にしつつ自分語りもたっぷりまじえ、かなり鼻につくもの。

後半は文書の内容とそれが持つ意義なんだけれど、うーん。こちらも、なんだか一般人の知っている聖書やユダヤ教の中身が決定的に覆るようなものではなく、細かい戒律や規定や習慣、いくつかの宗派の整理等々、といった非常に細かい、ユダヤ教キリスト教の歴史の研究者でもなければ関心がないような話。セカンドインパクトの到来や使徒の襲来については何もわからない。

ということで、なんだか結局はそんなすごい謎があったわけでもないし、ヴァチカンやネルフの陰謀もなく、ヴァリスがそこに眠っていたりもしないという話で、死海文書にすごい期待や興味を抱いている人にしか向かないと思う。たとえば死海文書とナグハマディ文書の区別がつかない人はお呼びでない。悪い本じゃないが、これだけテーマが特殊だと朝日の書評には、向かないと思う。

著者の自分語りが激しいと書いたけれど、自分の生まれや先祖の出から亡命、研究生活等々の一代記がくだくだ書かれ、最後の章は自分が死海文書を全訳していかに有名になったか、という自慢で、読み始めると「なんだこれは」と思うけれど、まあ年寄りのご愛敬ではあるんだが……でももう少し抑えてほしかったなあ。



クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.