
- 作者: 小島寛之
- 出版社/メーカー: プレジデント社
- 発売日: 2008/08
- メディア: 単行本
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本書は、昔献本してもらったけどうっぱらってしまい、今回お勉強のために買い直したんだが……
そもそもぼくは小島寛之のケインズ解釈にあまり感心していない。ホント、小野善康をほめたいならケインズを持ち出さずに小野理論それ自体として説明してほしいぜ。
たとえば本書ではまず小野のふんどしで、乗数効果を否定しようとする。これはケインズの枠組みの中ですら矛盾なんだって。なぜかというと、有効需要を増やすために公共事業をやったら、そのお金は税金で人々の可処分所得からぶんどることになる。だから可処分所得が減ってしまう。でもケインズの当初の仮定では、それは変わらないことになっているはずだからこれは矛盾だ!!(p.41)
はあ??? 小島&小野ワールドでは、公共事業するとき、その場ですぐ増税するんですかぁ??
普通は、国債出したりするだろうがよ。現時点の可処分所得は減らなくても、信用創造で使えるお金は生み出される。そして、ケインズの体系では、貯蓄とかもすべて常時活用されているわけじゃなくて、タンス預金があったり、ブタ積みされているお金があったり、というお金もあるわけでしょうが。ばらまき政策としてのケインズ理解だって、普通は国債でまかなうことを前提にしてるんじゃないの? 消費が落ち込んでるときに増税するなんて、いまの日本の政府ぐらいのバカじゃないとやらないよ。小野の乗数効果批判って、まさかこの程度の議論なの??!! そんなので乗数効果を批判されましても。それとも賢い消費者はそれに伴う将来の増税を期待に織り込み現在の消費を変える合理的期待形成ですか? でも中立命題を考えたリカードですら、そんな馬鹿なことは実際には起きないと書いて、極論だと言っている。この程度の現実認識で経済の話をしようとは……
一般向けの概説書に、変な仮定を置いた極論をしょっぱなから持ってきて、いったい小島寛之は何を考えておるのだ。しかし、これがもし小野理論の忠実な反映なら、なぜ小野善康が増税容認論を口走るのか、なんとなく見えてくる。
いきなりこれなので、その先はもう読みません……といいつつ流し読みしたけど、最後の意志決定理論でナイト流不確実性云々の話は、まあ別に大きく異論はございませんよ。でも、イーブリンが駆け落ちを間際で思いとどまった話は、いまなら割引率が双曲関数的になっていることで説明したほうがずっとすっきりするんじゃないの? 誘惑がどうしたこうしたって話、ぜんぜん明確じゃないし、それ以前にそれがどうした(ケインズとどんな関係が?)、という感じ。だいたい、何が「容疑者」だよ。容疑があるなら普通は事件があるんですが、事件がない容疑者なんだよね、この本って。全然だめどころか有害。

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