セン『正義のアイデア』:ホントならちゃんと紙面で書評して人に読ませるべきえらい本。

正義のアイデア

正義のアイデア

正月はさんで、えらくバタバタしていてちゃんと見ていなかったが、このセン『正義のアイデア』はどっかでだれかが当然採り上げているだろうと思って今日になってチェックしたら、なんとまったく出てこない! !!??と思って書評候補書の一覧を見直しても、そもそも出ていない! なんでや! 朝日新聞ともあろうものが、見落としひどすぎだろー……と思ってよく考えて見たら、これは朝日新聞のルールのせいだ。同じ著者の本は一年だか半年だかの間には一冊しか扱わない! そして、姜尚中が『アイデンティティと暴力』の書評を書いてしまっているので、この本は書評の候補にはあがってこない。

えーい、姜尚中め余計なことを! だいたいこの書評の冒頭「グローバル経済の格差と貧困を温床とするテロと暴力の連鎖」という認識自体がすでにかなり否定されているはずで、暴力はさておき、テロをやるのは昔もいまも、大学で中途半端に知恵をつけた、小金持ちの頭でっかち連中なんだよね。そもそも……というのは脱線だし、だいたい次の本がいつでるかなんてわからないから、姜尚中のせいではないのは当然なんだけど。それに『アイデンティティと暴力』もいい本だし。それでも惜しいなあ。いまから提案と思ったが、すでに出て二ヶ月以上経っている。ルールを一つ目をつぶるなら何とかなっても、二つ破るのはちょっと困難すぎる。

でもこの本は、ホントにすばらしい本だと思う。サンデル的な「サルと人間のどっちを助ける?」「デブ一人殺せば子供三人助かるよ」とか、まじめに見えて実は単なる知的パズルでしかない話を正義についての考察だと考えてしまう発想(変なピアニスト問題にうつつをぬかす一部の倫理学だの)に異を唱えて、正義というのが具体的な場面の実際の行動に即すものだというのを提示しつつ、それを深掘りする。抽象的な「正義」ではない、いまここにある状況を、いわば少しでも正義化する方策を考える、それ自体が優れて正義の実践となった本だと思う。ぶ厚いけどみんなもっと読んでほしいし、サンデルより役にたつと思うよ。



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山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.