保坂和志『魚は海のなんとか』:暴論めかしつつ深遠なことを書いたつもりで、愚鈍さと卑しさを露呈させた駄文集

魚は海の中で眠れるが鳥は空の中では眠れない

魚は海の中で眠れるが鳥は空の中では眠れない

いやこの本って、自分は実は(勉強してないけど)頭がよくて、作家様だからえらいと思ってる文なのね。でも言ってることは、グローバリズムって(なんだかよくしらないけど)反対とか、これ以上はないくらいありきたりな思いつきの書き殴り。日本の政治がだめなのは、民衆のせいではなくて、どっかに「やつら」というのがいてそれが人々と乖離した政治をしてるせいなんだって。なんでも「やつら」が悪いんだって。そして、自分の言っていることにはまちがいがたくさんみつかるかもしれないけれど、だからって自分が正しくないことにはならないんだって。あっそ。お気楽なもんですね。

露悪趣味で何かを語ろうとする作家は、セリーヌにせよゴンブロヴィッチにせよ必ずしも嫌いじゃないけど、でもそれで言うのが、いちばんありきたりなサヨク感想文じみた、よい子の読書感想文みたいな代物ではね。ぼくわぁ、せいじかがぁ、もっとぉ、こくみんのことおぉ、かんがえたほうがいいとおもいます! おかねよりもぉ、こころをぉ、たいせつにぃ、したいとおもいます! あたまがよくてもぉ、やさしくないとぉ、いけないとおもいます!

それ以上の水準には一歩も出てません。やれやれ。出版社もたぶんこれを恐れて、帯に「寝言?! 戯れ言?! なにいってんだこいつ?」とあらかじめ書いておいて、まぬけに見えるけれど、でもそこに真実がある(かもしれない)ような匂わせ方をしている。ご苦労様です。ただ、言ってることは大した暴論ではなくて、結論は本当にありきたりな話なのが本書のダメなところ。そしてその程度のことすら、間の議論をきちんとつなげず、一足飛びの印象論の飛躍でしか言えていない。もっと突拍子もない暴論が出てくればまだ評価できたんだけど。



クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.