フランク『時間と宇宙のすべて』:科学的な時間のとらえ方と一般的な時間のとらえかたを並行させたがうまく融合していない。

Time, Space, and Everything にかけた題名かと思ったら、原題は About Time なんだね。

 さて、時間のすべてを書こうという本で、開けると冒頭3ページ目に「ビッグバン理論は死にかけている」と書かれている。おおお、すごい、そうなんですか! ということでいそいそとページをめくると、序章が終わって第一章になるといきなり石器時代の話。石器時代の時間感覚とは、という話で、農耕が始まって循環する時間の概念がきて、都市化により時間概念が変化し、時計が発明され、電子メールが出てきて、アウトルックの時間管理が……

 分厚い本の半分くらいまでは、人間社会における時間概念の変化。そしてそこからやっと、科学的な時間概念の話になってきて、ビッグバンとかインフレ宇宙論とかひも理論とかになってくるのはかなり最後になってから。それと並行して、相対論を使ったGPSや同時性の概念といった社会的な考えをからめようとする。

 ビッグバン理論が死にかけているというのは、一回限りのビッグバンではなかったらしいというような話のこと。で、もはやそれ以前となると、それを考えることは意味があるのか、といった形而上学的な話になってくる。それを濫用するポモな発想の台頭などもあわせて考えて、著者は最後に、こうしたものすごい抽象的な科学が現代社会にとって持つ意味を問い、でも社会と時間と宇宙(と科学)が協力的に前進できる可能性に希望を抱いて終わる。

 本のコンセプトとしては、科学的な時間の感覚と並行して、人々が社会の中で時間をどうとらえているかを扱うことで、総合的な時間のありかたを提示しようというもの。ただ困ったことに、この両者はほとんどの場合はあまり結びついていないように思う。著者は強引に結びつけようとしているんだが……アウトルックの時間管理やテイラーの時間による工場管理、ファストフードとスローフードの時間のとらえかた、そういうのは現代科学の時間概念とは、やっぱ関係ないでしょう。もちろん、科学の時間もぼくたちの一般的な時間理解も変化はしているんだけどね。

 その意味で、志は高いが最終的には失敗した本だと思う。よって採り上げません。とはいえ、最後のほうの各種量子重力理論や泡宇宙の説明はかなりわかりやすいと思うし、一般人にとっての時間という話を全部取り除けば(あるいは読み飛ばせば)読んで損する本ではないと思う。



クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.