ガードナー『専門家の予想はサルにも劣る』:よい本。特にエーリックの醜態は見物。

専門家の予測はサルにも劣る

専門家の予測はサルにも劣る


専門家の予想というのはなかなか当たらん、それどころか専門家はみんなすでにわかっていることをもとに一定方向へのバイアスがかかるから、予想外の原因が出てきた瞬間に一斉にはずれる、という。だもんで、サルのダーツ投げより当たる確率は低かったりする。ついでにカオス理論や複雑系で、計算できない部分もあるのにできるような顔をするから……

というわけで、議論としては違和感はない。おっしゃる通りで、たまに予測とかやったりする身としては忸怩たるもんがある。ただ、予想はふつうに当たってるときには、「そんなの当然」といわれて注目されず、予想外の方向にものが動いてはずれたときにだけ注目されるという悲しい運命もあるし……

そんなこんなで、悪い本じゃない。特に変な党派性もない。そして本書で非常におもしろいのは、昔から人類は人口爆発で亡びるとか、恐ろしい疫病蔓延で亡びるとか、資源価格高騰とか、どうしようもない脅しばかり書いては壮大に外してきたポール・エーリックに話をきいていること。

エーリックの予言が当たれば、いまぼくがいるインドは、死屍累々の餓死者の荒野になっているはずで、しかもエーリックは、インドが飢えて餓死者が出ても、可哀想だとかいって援助してはならない、口減らしのために見殺しにしろとか平然と主張していた。ところが、緑の革命をボーローグ先生が推進して、インドは(そして世界の他の部分も)人口増に対応するだけの食料を生産できている。その他の悲惨な予言も全部はずれた。

ところが、エーリックは自分がいっさい外したとは思っていない。というか、思っているにしてもとにかく言を左右にして認めない。局所的に起きた飢餓や食料不足の細かい例をあれこれ並べ立てて、基本的に自分の予想は正しかった、と強弁している。すげえ。都合の悪いことには目をつぶる人は多いけれど、ここまでひどい言い逃れに終始する醜態は予想外だった。5刷り問題等の日垣隆みたい。

という具合に、おもしろい本ではあります。ウォルツァーとかコリアーとか、大物が入ったので採り上げられなかったのはちょっと無念。ただ、結論というか、それならどうしろというの、となると、まああまり明日のことにくよくよせず、気楽にいきましょう、という結論に最後の2ページで急激に落ちるので、ちょっと脱力感はあって、それもボツにした理由ではある。そこからもう少し強い積極的な議論ができれば……いや高望みなのはわかるんだが。



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