
現代思想 2015年1月臨時増刊号◎ピケティ 『21世紀の資本』を読む -格差と貧困の新理論-
- 作者: トマ・ピケティ,ポール・クルーグマン,デヴィッド・ハーヴェイ,スラヴォイ・ジジェク,浜矩子,橘木俊詔,竹信三恵子,伊藤誠
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2014/12/12
- メディア: ムック
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はじめてこの『現代思想』ピケティ特集のニュースを見たときにまっ先に眼に飛び込んできたのは、紫ばあさんがなんか書いているということで、それだけでこれがとうていまともなもんじゃないな、と思うのは人情でしょう。
ということで、正直いって買うのさえためらっていたんだよね。でも買って良かった。もちろん雑誌の常として玉石混交なんだけど、玉の比率が非常に高い。以下にざっと:
ピケティのインタビューが二本
どちらも短いけれど、時事的なテーマも含め、聞くべき事(まともな人なら知りたいと思うこと)をおさえている。読んで損なし。
エイキン「キャピタルマン」
ピケティの経歴のおさらい。世のアンチョコ本ではきちんとカバーされていないところで、ピケティブームのおさらいにもなっている。
紫ばあさんの駄文と竹信なんとかのどうでもいい文
どちらも駄文で文句なしの石。感想文の域を出るものではない。短いのが救い。
橘木「『21世紀の資本』の衝撃」
『21世紀の資本』まとめとしては簡潔で優れている。また、日本ではてっぺんばかりでなく、中流、下層部の中でも格差拡大がでて重要という指摘は、格差研究者の知見として重要だと思う。内容的には、アンチョコとしても昨日見た池田本読むよりこっちを読めという感じ(ちょっとむずかしいかもしれないけど)
伊藤「『21世紀の資本』と『資本論』」
多くの人が本書のタイトル(だけ)を見て当然気になっていた、ピケティとマルクスとの対比をしてくれている文。マルクス様にはかなわない、というのが結論ではあって、その意味で微笑ましいと思う人もいる(ぼくを含め)だろうけど、でもわかりやすいし有益。
中野佳祐の談話
ピケティを思想史的に位置づけようとしている談話だけど、スーザン・ジョージみたいなバカといっしょくたにしている点で、この中野自身もとうていまともなもんじゃない感じ。なんでもこじつけでつなげればいいってもんじゃない。石です。
諸富「グローバル累進資本課税の検討」
タイトル通り。ヨーロッパなどの政策の現状も含め、参考になります。
中山「悲観的クズネッツ主義者の挑戦」
クズネッツのやったこととの対比。あまりおもしろくないが生真面目ではあって、石と決めつけるのはためらわれるけど。
堀茂樹「メリトクラシー再考」
ピケティを受けて、メリトクラシーについて考察した文で、独自展開の議論としてはありだと思う。ピケティ受けて自分がどう考えたかというこういう議論はもっとあってもいいんじゃないかな。
長原の三題噺
ごみくず。時事ネタにからめてピケティと言ってみたかったけどなにもオチを思いつかなかったという駄文。エボラとか音楽のバンドエイドとか。
足立「資産、レント、女性」
ピケティをフェミ的にあれこれ言おうとしたんだけど、基本は無内容。こいつも r をガンマとまちがえてるんですねー。竹信だけでなく、なんかサヨフェミ系でそういうレジュメでも出回ってるんですか?
ローソン「ピケティ批判」
資本所得比率は増えてなくて、そう見えるのは最近の資産価格バブルによるものかも、資本労働弾力性の見方がまちがっているせいでこのまちがいが生じている、とのこと。批判としてはおもしろいし、かなり本質的なもの。たぶん本書の読者の多くはちんぷんかんぷんだろうけど。
総括!
ということで、かなり充実している。どの文章も、ピケティが意外なベストセラーになってそこに何が書いてあってというのを冒頭でいちいち繰り返すので鬱陶しいが、これは時事ネタを扱う文の常として仕方ない。また、ジジェクの駄文は、これが客寄せパンダになる読者層もいるんでしょう。紫ばあさんだけはわからん。この名前を見た瞬間にこの本を見放す読者はかなり多いと思う。なんでこんな人に書かせたの?
ピケティの副読本としては、現時点では最もいいんじゃないか。もちろん、アンチョコ本としては使えないけれど、その背景や議論の広がりとか、多くの人の関心事とかを押さえるという意味ではきわめてしっかりしていると思う。現代思想にしては薄いし、また余白の大きな一段組ページ
ばかりだから、通常の現代思想よりは割高感はあるけれど、他のアンチョコ本と比べればぼったくり感はない。まったくの入門者にはすすめられないけれど、少し経済学のイロハのロくらいまでわかっている人なら、有益じゃないかな。

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