スターリン閣下はお怒りのようです:インタビューの読み方説明

付記:なんか多くの人が、これを2020年10月の学術会議がらみの一件に対する批評的な意図を持ったものだと読んでいるようなんだが、ぼくは実はまるでそんなことを考えていたわけではないのだよ。ホント、たまたま出てきただけなのよ。が、もちろんそういう解釈があり得ることはわからなくはない。そして、それが決して的外れな解釈ではないのも事実。でも、それだけですませてしまうにはもったいない。中身の理解と、その時事的な応用は分けないと。山形がある意味でのさばっているのも、一方であり得るほどはのさばっていないのも、実はある種の文書化された状況や力関係の解読は結構うまい一方、まさに以下で書いたような現実の場でのガンつけに異様に鈍感な部分があるからで、そういう時事的な話にヘタに乗れない/乗らないから、なのだ。そしていまの日本の環境ではそうした空気の読まなさ/読めなさが、すぐに寒いところ送りにはつながらないどころか、逆に根拠ある自信なのかもと誤解されて一目おかれたりする要素にもなるからではあるのだ、というのを今回の一件で改めて感じた次第。みんな、日本は平和でよかったねー。

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はじめに

昨日あげたスターリンのインタビュー、なんだかずいぶん評判で何より。この混迷した時代にあって、皆様が真の強力な指導者を求めていることがたいへんよくわかる事態でございます。

cruel.hatenablog.com

が、反応を見てると、このインタビューの恐さをみなさん、あまりよくわかっておられないのでは、という印象がどうしても出てくる。あのインタビューを、何か礼儀正しい知的な対談のように普通に読んでいる人が多い。そしてぼくが説明で、ウェルズがおめでたい知識人のボケ役みたいなネタにしてしまったこともあり、ほほえましく受けとっている人もいる。(あと、スターリンに真面目に反論している人もいたけど、無駄だからやめるように。スターリン死んでるし)

でも実はあれ、とってもおっかない代物だ。「だってスターリンのその後を知ってりゃこわいに決まってる」みたいな意見もあったけれど、そういうことじゃない(それって、あらかじめ人にレッテルが貼ってないと評価できないってことだから、マズいよ)。あのやりとりだけを見て、おっかないと思わなくてはいけないということだ。

その意味で、付属の解説でウェルズをずいぶん呑気な人物に描いてしまったけれど、あれはぼくの戯画化で、ちょっとフェアじゃなかった。彼はとてもえらい知識人で、ある種の良心を体現する存在でもある。が、悪い意味でひねていない、あまりに素直な見通しを持ちすぎているのは明らか。そしてたぶん、その彼ですらあの場でかなり冷や汗をかいたはず。少なくとも、話が自分の思っていたのとなんだか違う方向に向かっているという、ものすごい違和感は感じたはずなのだ。その違和感の正体まではわからなかったにしても。

 

それがうかがえる点がいくつかある。訳していてウェルズの発言がずいぶん不自然に思えるところがあるのだ。途中でいきなり、インテリゲンツィアがどうした言い出すところ、脈絡なしに教育の役割だなんだ言い出すところ。彼は明らかに、もともとこのインタビューに臨むにあたって、ある種のシナリオを想定していた。インテリとか教育とかは、その大きな論点だったはず。ところが、実際の話がそのシナリオとかなり乖離して、必死で自分の主張に戻ろうとして、唐突でもはさむしかなかったのね。

そして途中で、自分の論点を箇条書きでまとめている部分。あれって、プレゼンとかで話が自分の想定通りにすすんでいないときに、何とか引き戻そうとするときの常套手段なので、相手が「えー、これまでの議論をまとめますと」「論点を整理しますと」とか言うときには警戒したほうがいい。ウェルズも、やべえな、とあのあたりで思い始めている。

そうしたことを考えると、ウェルズがこのインタビューに臨むに当たり、どんなシナリオを想定していたか、ぼくにはだいたいわかる気がする。それはこんなものだったはずだ。

想定シナリオ:大知識人ウェルズとスターリン対談:社会主義ビッグウェーブは今だ!

ウェルズ:スターリンさん、ルーズベルトニューディールとかいって、社会主義じみてきましたね!

スターリンいやぁ、連中も大恐慌でやっと目を覚ましたようですな。時代は確実に我らのものです。

ウェルズ:やっぱこのビッグウェーブに乗るためにも、ぼくたち意識の高いインテリが社会の意識改革には重要ですね!

スターリンおっしゃる通り、ソ連でもそうした高度なインテリたちは社会で重要な役割を果たしています。社会の大きな変革も、彼らがいればこそ可能になるのです!

ウェルズ:それとやはり、教育で人々の意識を高めるのも大事ですねー。

スターリンその通り、ソ連は人民の教育に大いに力を入れております! 知識、教養、技能こそ国家の基盤です!

ウェルズ:でも今の社会主義プロパガンダって暴力革命を強調しすぎて、意識高い人たちに敬遠されちゃってるんですよー。ぼくたちインテリもやりにくいんです。

スターリンうーん、そういう面はあるかもしれない。すでに我々が社会主義の実現性を証明した今となっては、オルグ方法を見直す余地もあるかもしれませんな。チャーティスト運動の先例もあるし。

ウェルズ:現状の秩序を活用して、無駄な破壊はやめないと。チャーティストは鳴かず飛ばずでしたからねー。

スターリンあなたの考える社会主義への道も、いちがいに否定するつもりはありませんよ、特にアメリカの変貌を見るとそう思われます。

ウェルズ:ルーズベルトとあなたの見解こそが世界を導くのです!

スターリン我が国の作家たちともそのあたりを議論なさっては?

ウェルズ:ゴーリキーとは議論しますが、もちろんそろそろ言論の自由は復活してますよね?

スターリン当然です! 自由な議論が発展の基礎です!

 

ところが実際のインタビューは、まったくウェルズのシナリオ通りに進まなかった。完全にスターリンの意図通りに乗っ取られた。ウェルズが言うことは同じでも、スターリンのほうが何枚も上手だった。その中身とは?

 

実際のインタビュー:スターリン独演会:甘えたこと言ってる知識人は収容所送り!

最近の「ジャーナリスト」の一部はとっても思い上がっていて、いろんなインタビューが対等な議論だとか思ってるふしがあるんだけれど、お読みのみなさんは、まさかそんなことは思ってないよねえ。あたりまえの話ではあるんだけれど、ここでもスターリンは別にウェルズと知的な会話を楽しみたくてこんな話に応じたわけじゃない。当然ながら、これはプロパガンダの一環だ。特に、ソ連共産圏ではそれが顕著だ。そこには明確なメッセージがあって、まずそれをきちんと理解しなくてはならない。そしてこのインタビューでのスターリン様のメッセージは:西側知識人はいい気になるな、というもの。だから読む時も、次のようなメッセージを端々から感じ取ってほしい。このインタビューは、その裏のメッセージがかなり表に出ているという点で非常にわかりやすいのだ。

 

ウェルズ:スターリンさん、ルーズベルトニューディールとかいって、社会主義じみてきましたね!

スターリン全然ちがうよバーカ。あんなの旧体制温存のままごと以下だろが! いっしょにすんな。

ウェルズ:やっぱこのビッグウェーブに乗るためにも、ぼくたち意識の高いインテリが社会の意識改革には重要ですね!

スターリン根本的にわかってねーな。基本は階級闘争でプロレタリアの政権奪取! インテリなんてただの道具、労働者の使用人で奴隷だ。大衆たる労働者が基本だろうが。いやあ、うちの革命でも頑固なインテリどもに言うこときかせるのには、えっらい苦労させられたぜ。くだらん勘違いしてんじゃねーぞ(おまえがロシア人ならこの時点で収容所送りだ)

ウェルズ:それとやはり、教育で人々の意識を高めるのも大事ですねー。

スターリン(無視)

ウェルズ:でも今の社会主義プロパガンダって暴力革命を強調しすぎて、意識高い人たちに敬遠されちゃってるんですよー。ぼくたちインテリもやりにくいんです。

スターリンいまの資本家階級が、暴力なしにおとなしく権力譲り渡すと思ってるのかよ。インテリ様は自分の地位を犠牲にしてまで社会変えてくれるの? おまえら現体制の寄生虫じゃん。いい気になるな。

ウェルズ:現状の秩序を活用して、無駄な破壊はやめないと。チャーティストは鳴かず飛ばずでしたからねー。

スターリン(怒) おまえなあ、口先インテリの分際で、チャーティスト運動なめんな。あいつらは頑張って社会を変えただろう。それに応じたおまえらの資本家たちって、結構柔軟で頭よかったよな。

ウェルズ:ルーズベルトとあなたの見解こそが世界を導くのです!

スターリン(そんな話がしたけりゃ、うちの傀儡作家どもとでもやってろ。)作家会議には行かないの?

ウェルズ:ゴーリキーとは議論します。もちろん、そろそろ反対意見も含め言論の自由は復活してますよね?

スターリンゴーリキー(ぷぷっ)。おう、自己批判」ならいっぱいやらせてるぜ(ニヤリ)

 

やっぱ最後にスターリンが「自己批判」って言い出したところ、いまの人々はその後の展開と、この言葉が果たした役割を知っているから冷や汗どころではないけれど、ウェルズはこの時点ではどこまでわかっていたんだろうか。

というわけで、せっかく読むなら、表面的なスターリンの発言を考えるのも必要だけれど(そしてそれもなかなか面白い)、礼儀正しい表現の裏でスターリンが飛ばしまくってるガンも、しっかり読み取ってほしい。ときどき、そういう能力ばかり発達させている人がいて、それはそれでいやなんだけれど、でもそれに鈍感すぎるのは、現代でもいろいろ不便なはず。

ちなみにこうしてガンつけられてわかんないやつは、ソ連ではすかさず寒いところに送られてしまったのです。(まあガンつけられた時点ですでにアウトだったそうだけれど)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/en/a/ae/Gulag_montage.jpg