
はじめに
はい続き。スタニスワフ・レム『SFと未来学』第11章「人間と超人」。前章の最後で「次回は、人間と超人。どうせ、SFは馬鹿なスーパーマン妄想にふけっていてアホ、ステープルドンはすごいと言うんでしょ。もうだいたい読めてるんだよね。が、まあお手並み拝見。」と書いたが、8割あっていたけどちょっとちがった。
まずSFの悪口は最初と最後の一行ずつだけ。「こいつら何も考えてないから見るだけ無駄」というだけ。あとは、ステープルドン『オッド・ジョン』はすごいぜ、という話が延々続く。ここまでは予想通り。
だがその後に急に天才論に話が脱線する。レムは「天才は努力の産物でしかない」という発想が嫌いで、自閉症の子がものすごい計算能力を発揮できる例はいくらでもあるので、やっぱ天賦の才ってのはあるはずだよ、と主張。でもそれ、全然関係ない……
そして「でも超人だって普通の人間と同じ選択を迫られるよねー」という話になって……それでおしまい。レムの考える超人論を展開しただけで、ぜんぜんSFと関係ない……
あらすじ
実はSFではマンガ以外では超人/スーパーマンってあまり出てこないんだよねー。[読者の心の叫び:え、ヴァン=ヴォクト『スラン』とか『レンズマン』とかスタージョン『人間以上』とかいくらでもあるのでは……] まともに扱った唯一の作品は、ステープルドン『オッド・ジョン』だけ。
あらすじを説明すると、人間よりはるかにすごいので子供の頃はハブられ、バカな人間を見下すけれど、やがてその能力で人間を救おうとし、仲間を集めて島にこもるけれど、最後に人間たちに総攻撃をくらって死んじゃいました、という話。
劣った人間共に対するジョンの哀れみに満ちた態度、一方で人間に同情しつつも、自分の目的のためには虐殺しようとまったく平気な超人間の優位性。そこらへんをしっかり考えて描いているのがすごい。
ただし別に『オッド・ジョン』は文学的な価値があるわけではない。むしろヘタクソ。でも特に最初の部分、超人としての居心地の悪さを子供時代のみんなの知る居心地悪さと関連づけたのはうまい。
そして次第に、他の超人たちともテレパシーで交流するようになる。超人であるが故に人類社会に対して様々な態度があり得るのをしっかり考えている。超人たちは一枚岩じゃない。人間に対して積極的に働きかけるオッド・ジョンのような立場もあれば、ひたすら傍観に徹するやり方もある。
でも『オッド・ジョン』の最後は残念。オッド・ジョンは人間を救ってあげるために超人たちだけの秘密の超人アイランドを作ろうとする。人間に対する哀れみを表明しつつ、オッド・ジョンは自分の秘密の超人アイランドを守るために救った船の船員たちをぶちころす。その島の先住民たちも虐殺する。超人のくせに、そんな人間にちょっかいだしたら反発くらうのも予想できず、さらに凡人どもの軍事戦略も見通せずあっさりやられておしまい。
それでも『オッド・ジョン』は、失敗作だがきわめて野心的。文学的には黙殺されているが、それは文学というのが思索の中身よりも表現のポエジーにこだわる偏見を持っているため。
この超人と人間の関係は、天才と凡人の関係みたいなもの。最近では、天才ってのは努力を続けることで生まれるものでしかない、という説が出てきてるけど、バカすぎ。計算の天才みたいなのがいるでしょうに。努力なんかなくてもものすごい暗算ができる。努力だけのはずがないだろ。ついでに天才って、環境要因もある。数学という分野がないところでは、数学の天才は何の意味もない。脳の働きは何もわかってないし、だから天才についても何もわからないんだよ![読者の心の叫び:ご高説は拝聴いたしますが、それって何も関係ないですよね?]
超人になっても最終的になんでもできるわけじゃない。だから、何を選んで何を捨てるか、という選択に迫られるのは凡人と同じ。本当は、超人であるが故にその選択が先鋭化されはずで、それを描いてほしかったところ。それが最後に急に虐殺をはじめて、その後あっさり人間にやられておしまい、というのはあまりに安易。ステープルドンですら、そこのところまで描ききれなかった。
バイオテクノロジーが発展して人間がじわじわ超人に近づく未来はありそう。でもそこでどういう選択に人間が直面し、それにどう対応すべきか——SFなんてバカで何も考えてないから、何もヒントはないよ。
感想
レムの超人論は、まあおもしろくはある。超人だって結局人間と同じ悩みに直面する——それはそうだ。が、それってあらゆるスーパーヒーローものの定番ではありませんか? そして普通の人間との関係も。「大いなる力には大いなる責任が伴うのだよ、ピーター!」
だからステープルドンだけすごいえらい、と言われるのはどうよ、とは思う。レムの評価だと、超人としての上から目線をきちんと描きました、というところが評価ポイントになってしまう感じだが、そうなのかね。そういうのも不十分ながらSFとか頑張っていますよ。『ウォッチメン』とか。一気に完成はしなくても、ダメなSFも少しずついろんなことを考えてはいるみたいですよ。
全体に、単にレムのご高説を述べただけで、SFとの関連みたいな話が薄いなあ。天才論とか関係ないし。ここまで何もないとちょっと寂しい。レムが『スラン』や『人間以上』を細かく罵倒するのが読みたかった気はする (『人間以上』はこの先出てくるし、実際に書かれたらちょっとうんざりしただろうとは思うけれど)。
お次は……
次は、全然終わってないのに「総括」という章がくるんだよね。でも、正直いって、いったい何が何の総括なのかわからない変な(つまらない) 章。これも短いのではやめに終わるとは思う。
その後にニュー・ウェーブ批判と、それからユートピア小説についてのながーい章が待っている。少しはおもしろいんじゃないかな。
