2000年に出たレムの、ほぼ最後に近い数冊の一つ、Okamgnienie. 『技術大全』『対話』をふり返っているというので、お手並み拝見と思って読んでみた。75ページしかないので、ほとんど一瞬。

その中身はかなりトホホ。最近の科学技術の動向をいろいろ得意げに述べて、『技術大全』や『対話』とちょっと重なるところがあると、当たった/当たらないとは言うが、体系だった比較、かつての主張の基本となった考え方の変化などについてのコメントはない。
またその科学技術の動向も、通俗科学解説書レベルのお話を一歩も出ない。かつてはもう少し高度な情報源を持っていたようだが、追いつけていないなあ。仕方ないんだが、それでも衰えたなあという印象はぬぐえない。まあ79歳のときに出た本だから……
そして全体に諦めムードと悲観論。SETIがうまくいかず、ウチュージンが見つからなかったのは、レムにとってかなり大きな挫折だったみたいだ。宇宙旅行もつらそう、遺伝子操作その他もぜんぜん思った通りにいかないし、情報氾濫はどうしようもない、温暖化だのも発生しちゃうし、人口問題もでかいし、変化がはやくて哲学者の思索なんか無意味だし、技術者が現実的にその場で対応するしかないよ……
まあその通りではあるんだが、あの『技術大全』のぶっとんだ話に、あきれながらもちょっと驚愕して感動した身としては、こういうチマチマしたまとまり方になっちゃったか、と思うと少し残念なものがある。
内容的に、全訳するほどのものじゃない (AI翻訳で一応全訳したけど、整形するのも面倒)。以下に要約を作った。全体の要領を得ない様子、同じことが繰り返されるまとまりのなさ、テーマも整理されておらず、その場の思いつきであれこれ言っている感じ、そしてグチっぽい諦め感は読み取れるとは思う。最後の最後、携帯VR環境で云々というのは、スマホにかじりついてYouTubeショート見てるガキどもを予言しているとは……まあ言えなくもないかな。
どこかの連載かとも思ったが、それぞれの章ごとの長さがぜんぜんちがうので、どうもちがうみたい。といって、単行本として一気に出たにしては、あまりにまとまりがない。いろんな内容、もっと整理できるはず。口述筆記っぽい感じ。どういう性質の文なのかはよくわからないが、まあわかったところで、それで何か変わるわけではない。
スタニスワフ・レム『まばたき一瞬:科学技術の進歩』(2000) 要約
序文:技術予測はむずかしい
- 5年前 (1993) のドイツ『21世紀の技術』という報告書は、インターネットやバイオ技術は素通り。技術予測はむずい
- 昔、『技術大全』と『対話』は、東欧検閲体制でかなり厳しく取り締まられた。半世紀前の予想の一部はあたり、一部は当たらなかった。
ジレンマ:実際の技術進歩のほうが早い!
- 『技術大全』と『対話』の時代に比べて技術進歩は加速した。
- ゲノム解読が起こり、バイオコンピュータが出そう。そろそろシリコンの時代は終わる。
- ナノテクとあわせてAIが実現する。
- 現実が哲学思想なんかよりすばやい。
盗作と創造
- 文明は生物工学に大きく転換する。これは自分が半世紀前に予想した通りだ。
- 『対話』は実は、サイバネの衣を被った体制批判だった。
- だがクローンを見てもわかるように、なかなかうまくいかない。事故も多いので注意は必要。
不死をめぐる論争
- 不老不死はこれまで真面目に扱わなかったが、可能性はあるかもしれない。人工臓器やゲノム解析、新薬が新しい可能性を実現。
- ただし生命は不可逆で死ぬのは避けられない。脳を若返らせたら人格が消える。まだまだ実現にはほど遠い。
致命的な状況
- 最近の科学ジャーナリズムはやたら扇情的になっている。未来予測は謙虚にやろう
宇宙文明/地球外文明の統計/N = R* f_p n_e f_l f_i f_c L
- SETIは完全に失敗。生命に適した星はあっても技術文明構築のハードルは高い。おまけにバクテリアさえ見つからない。
- 地球でも高度技術を発達させた文明はまれだ。ETはいないかもしれない。
(3章にわたり同じ内容を繰り返している)
宇宙における人間
- 人間は地上に適応しているので、宇宙は苦手。無重力で筋肉や骨がすぐボロボロ。
- 人工重力はつらいし、火星までは旅行時間が長すぎて無理。銀河植民もたぶんあり得ない。
建設者の視点から
- 機械意識の哲学談義は無意味。建設者的に、目的遂行の視点から考えないと。
- 意識はシステム全体の協働によるもので、局所化できないのだ。
ロボット工学
- ロボットも急速に進歩。まさかペットロボットなんかが出るとは思っていなかった。
- 簡単に思える掃除などの作業ほど面倒で費用がかかる。
- これも哲学談義は無意味。エンジニアの試行錯誤で決まる。
マクロク/ 知能・理性・叡智/意識のパラドックス/知能は偶然か必然か
- クローンや幹細胞は進歩しているがまだまだ。遺伝子編集も未知が多い。人間を自己進化させるまでは遠い。
- 知能は機械的に構築可能だが、理性・叡智は人間的・道徳的次元が強い。
- 意識はよくわからない。『技術大全』での機械意識の扱いはあまりに幼稚だった。
- 人間の知能は、必然ではなく局所的で偶発的。人工知能もまだまだ 。謙虚さが必要
(4章にわたり似たような話の繰り返し)
危険な概念
- 生物学に物理学者が入り込んでいるが、これは必然。ただし生命は複雑でむずかしい。
- 遺伝子操作も困難で、ちょっとした遺伝病の治療くらいで終わりそう
もう一つの進化
- 『技術大全』は、生物進化と技術進化との対比がテーマだった。
- 技術進化は生物進化をもっと真似ろ。技術は自然を超えられる!
- タンパク質を超えた合成人工進化を実現させろ! まだ妄想だがあきらめるな!
困ったこと
- 科学の進歩がはやすぎて、科学誌ですら古いネタしか出ていない。
- 地球や火星は、かなり激しい変動を経てできあがったみたいだ。火星に生命の痕跡があるかも
変化
- 未来だけでなく過去の理解も変化している。スノーボール/アースとかカンブリア爆発とか
- なぜ人類の頭がでかくなったかもわからない。何か目的的に進化するもんじゃない。
第三千年紀の到来に際して
- 『技術大全』と『対話』は、当たったところもあるしはずれたところもある。
- 気候変動は大きな問題、不老不死はむずかしい。意識とロボットもよくわからん。
- 昔は軍事方面にあまり触れられなかった。あと新技術はいろいろリスクもあるから気をつけないと。
未来は暗い
- フクヤマ『歴史の終わり』は進歩史観に基づくバカだね。
- おれは論説では進歩を論じるが小説では人類の幸福のための思考実験をしてる
- 科学は軍拡とかで悪用、進化もゲノム解読があまし効果ない。
- 民主主義もお先真っ暗で安定した進歩なんか幻想だね
情報過多
- 大きな危機は情報洪水。センセーショナルな報道、思いつきの滑稽な予測。
- 今後は携帯VR環境でみんな幻影の中で生きるようになるんじゃないの。
付記
もったいないから全訳ファイルおいとくわ。