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ラヴジョイ『存在の大いなる連鎖』第2講:ギリシャ哲学と三つの原理

お待ちかね (だれも待ってないか) 『存在の大いなる連鎖』第2講の翻訳。 まずは、暇な人は訳をごらんあれ。 ラヴジョイ『存在の大いなる連鎖』第2講:ギリシャ哲学における観念の創成:三つの原理 みんな読まないだろうからあらすじを。 前回の第1講は、そもそも観念史って何をする学問なの? という疑問に答えたものだった。 cruel.hatenablog.com 今回は、このシリーズで実際に扱う「観念」を紹介する。具体的には次の3つの原理となる。 充満の原理 連続性の原理 段階性の原…

ラヴジョイ『存在の大いなる連鎖』補論:現代に生きる存在の連鎖 (ちがう)

昨日、ラヴジョイ『存在の大いなる連鎖』の最終講を見て、その滅多斬りぶりがスゲえという話をした。 cruel.hatenablog.com 一晩寝ると、なおさらすごいな、と思う。ふつう、ここまでやらないと思うのだ。普通はどうするだろうか? なんとかポジティブに終えたいと思ってしまうのが人情だろう。そしてその簡単な手はすぐに思いつく。まず、最終回の題名を変えよう。 「現代に生きる存在の連鎖」 とかいうタイトルにしましょう。そして、全体の話の構成はこんな具合にしよう。 (ヤコービが…

ラヴジョイ『存在の大いなる連鎖』の最終講:存在の連鎖は破綻した無意味な思想

ラヴジョイ『存在の大いなる連鎖』の翻訳を始めた話はした。 cruel.hatenablog.com 素直に第2講を初めて、半分くらいはおわっているんだけれど、そもそもこの話がどこへ行くのか知りたくて (はい、推理小説もまず最後を読むタイプです)、最後の第11講をあげてしまいました。 ラヴジョイ『存在の大いなる連鎖』第11講 (最終回) もちろん、このpdfを読むとそれなりにウダウダしい。だが、そこで言われていることは、第1講と同じでとてもシンプルではある。それはつまり、以下の…

ラヴジョイは「冷笑系」:非ビリーバーの優位性

ラヴジョイ『存在の大いなる連鎖』を勝手に翻訳している話をした。 cruel.hatenablog.com で、引き続きやっていて、第2講もいまのところ、なかなかおもしろい。まだ前半だけだけれど、言われていることはやはり単純だ。 頻出する観念として「異世界性」と「この世性」みたいなのがある。 異世界性は、来世の天国で処女が17人!とか、この世が気に食わんから異世界転生するなろう小説みたいなもの欲しげな話とはちがう。そういう異世界転生って、この世の価値観のまま自分の都合のいい世界…

オーウェル「バーナム再考:現状追認知識人の権力崇拝とその弊害」(1946)

…家たちの一人なのだ。*1。死んでいなければ、おそらくトロツキーのように追放されたか、あるいはスターリンに負けず劣らずの野蛮な手法によって権力の座に留まり続けただろう。したがってバーナムの論説は一理ありそうで、彼がそれを事実に訴えることで裏付けてくれるのだろうと期待したくもなる。 ところがこの論説は、そこで述べられているはずの対象にはほとんど触れないのだ。レーニンとスターリンとの間に政策の連続性があることを本気で示したいなら、まずはレーニンの政策の概説から初めて、それからスター…

トマス・ピンチョン「『1984年』への道:オーウェル『1984年』序文」

Executive Summary トマス・ピンチョンによるオーウェル『1984年』への2003序文。本書が単なる反ソ反共小説ではない。オーウェル自身、立派な左派社会主義者ではあった。だが彼は、制度化された社会主義が己の権力にばかりこだわり、スターリニズムに目を閉ざし、むしろ肯定するのに絶望していた。本書の批判は、そうした社会主義が己の権力温存のために使う手段の戯画化である。世界分割はヴェルサイユ講和会議や第二次大戦後の戦後体制の戯画化でもある。本書の批判はもちろん、現在のネ…

オーウェル『1984年』序文からわかる、ピンチョンのつまらなさとアナクロ性

Executive Summary トマス・ピンチョンのオーウェル『1984年』序文は、まったく構造化されず、思いつきを羅列しただけ。何の脈絡も論理の筋もない。しかもその思いつきもつまらないものばかり。唯一見るべきは、「補遺;ニュースピークの原理」が過去形で書かれていることにこめられた希望だけ。だが、考えて見れば、ピンチョンはすべて雑然とした羅列しかできない人ではある。それを複雑な世界の反映となる豊穣な猥雑さだと思ってみんなもてはやしてきた。だが実はそれは、読者側の深読みにす…

ピケティ『資本とイデオロギー』読書ガイド

…込む余地もあると思う*1。それが全体の論旨にどこまで影響しているかは、読者のみなさんが判断してほしい。 4. 最後に 『資本とイデオロギー』は、非常に野心的な本ではある。『21世紀の資本』の成功に気をよくして、かなり風呂敷を広げようとしている。ただし、そのためにやたらにボリュームが広がってしまい、もう少し絞られた関心を持った人=大半の人にとっては、なかなかポイントがつかみにくくなってしまっている面はある。 そんな人に、この小論が少しでもお役にたてば幸い。そして、みんなが自分の…

プリゴジンくんの想い出を語るプーチン

Executive Summary 8/23あたりに起きた、ワグネルグループのプリゴジン粛清不慮の死をめぐるプーチンコメント。思わせぶりな部分もあるが、現時点では単なる事実確認。ただ雰囲気としては、ウクライナ/悪の西側による殺害、ということにしたい感じが漂っている。あと、ワグネルグループに触れてはいるが、一方でプリゴジンを、むしろ資源系のビジネスマンにしたいような雰囲気は不思議。あまり深読みするのも意味はないだろうが。 ドネツク人民共和国 首長代行デニス・プーシリンとの会合 …

チェ・ゲバラ広島行きの謎、および三好徹『ゲバラ伝』

いま訳しているゲバラ本、詳細なだけあって、とにかくおもしろいエピソード満載ではある。その一つが、1959年ゲバラの来日および広島訪問のエピソードだ。 簡単に背景を。1959年1月、世界の驚きをよそにキューバ革命が成功してハバナは制圧されてしまい、新政権が樹立した。カストロは、表向きは自分が共産主義者じゃないと言い張りつつ、軍と政権内の粛清とキューバ共産党 (=人民社会党) メンバーの浸透を着々と進める。 そんな中、カストロは今後のアメリカとの関係悪化を予想し、アメリカ以外への…

6/26 プリゴジンの乱に対するプーチン弁解の見方

Executive Summary 6/24プリゴジンの乱についてプーチンが6/26に出した玉音放送は、プーチンが今回の騒乱で何を気にしているかがうかがえる。ワグネルがほとんど何の抵抗もなしにモスクワの手前に到達できたし、また一部では歓迎すらされたというのを大変気にしている模様。同時に、自分たちがそれに対して無策でおたついていた (少なくともそう見られている) のも気にして、「いや最初から手は打った! 反撃がなかったのは流血を避けるため! 対応がないのは改心の時間を与えたため…

ロシア国民に向けて:プリゴジンの乱を受けたプーチン声明 (6/24)

Executive Summary 6月24日、突然起きたプリゴジンの乱で兵がモスクワに迫る中で、プーチン大統領が発した声明。内容は「反乱軍は許さんのよ」ということのみ。 訳しているさなかに、プーチンがサンクトペテルブルクに逃げたという未確認情報……と思ったらプリゴジンは「やっぱやーめた」と兵を引き、ベラルーシに逃げて、その他関係者みんなお咎めなしで、プーチンもまだモスクワにいるともいうし、なんだかよくわからない (ただし、クレムリンの通常の演説などに必ずついている場所の表示…

2023年6月 アフリカ代表団とプーチン大統領との会合

Executive Summary 2023年6月、アフリカ連合を筆頭に、アフリカ大陸代表として7ヶ国で構成される代表団が、ウクライナとロシアを訪問。ウクライナ侵略により生じた食糧危機とエネルギー危機でアフリカが苦境に陥っているので、平和を目指す対話路線をプーチンに陳情した。自国の直接的な利害と同時に、アフリカとして主体的にこうした戦争仲裁のような活動を行うのはこれが初めてであり、今後自分たちも国際関係の中で、平和と良好な世界の構築に向けて構築したい、できることがあるならウク…

リックライダー「人と計算機の共生」

…た5年という数字だ。*1 参考文献 [1] A. Bernstein and M. deV. Roberts, "Computer versus chess-player," Scientific American, vol. 198, pp. 96-98; June, 1958. [2] W. W. Bledsoe and I. Browning, "Pattern Recognition and Reading by Machine," Eastern Joint Com…

プーチン論説集の低アクセスにがっかり、それとマクロン

数日前に、プーチンの大統領就任からウクライナ侵略までの各種重要な演説や論説、記者会見の公式記録を集めで訳したものを作って、大統領任期毎に分析もいれたんだけれど、反応がなんか鈍いなと思ったところ、ページのアクセス数が三日ほどで2000件。 ……アクセスだけで2000しかないということは、まあ実際にダウンロードまでした人はその1割で200人、少しでも読んだ人は二桁がいいところか。いやあ、ここまでみんな興味がないとはびっくり/がっかり。多少は皆様のお役にたつと思っておりましたが………

プーチン大統領と親しくお話をするエドワード・スノーデン (2014)

ご存じかもしれないけれど、ぼくはエドワード・スノーデンの自伝を訳した。 スノーデン 独白 消せない記録作者:エドワード・スノーデン河出書房新社Amazon それなりにおもしろい伝記ではある。まあその後ちょっとあまり楽しくないできごともあったりして、がんばって宣伝しようという気持が萎えてしまった部分はある。しかし彼がそれなりの正義感を持ってNSAによる大量監視システムを暴露したのはまちがいないし、個人的にはそれが大変勇敢で立派なことだと思っている。 ただこの伝記の中で、彼はずっ…

ルイスのサイード批判:「オリエンタリズムの問題」

…むしろ悪化している。*1当事者として、言いたいことがありすぎて整理し切れてないんだよな。惜しい。 本当なら、まっ先に以下の部分を挙げればよかったと思うなあ。pdfのpp.16-17の注の部分。 私 [ルイス] は「革命」を指す(中略) 現代アラビア語で最も広く使われている用語を紹介した。 「古典アラビア語の語幹th-w-r は、立ち上がる (たとえばラクダに乗って)、動揺し興奮したりするという意味で、ひいては特にマグレブ用法では、反逆する、という意味となる。これはしばしば小さ…

プーチン「新千年紀を迎えるロシア」(1999)

…年紀を迎えるロシア *1 Россия на рубеже тысячелетий 1999年12月30日 ウラジーミル・プーチン 翻訳:山形浩生 hiyori13@alum.mit.edu 目次: 新しい可能性、新しい問題 2 ロシアの現況 3 ロシアが学ぶべき教訓 5 まともな未来の可能性 7 人類は二つの象徴的なしるしの下に生きている。新しい千年紀 (ミレニアム) とキリスト教2000周年だ。この二つの出来事に対する世間の関心と注目は、単に赤字の祭日を祝うという伝統以上…

サイード『オリエンタリズム』1995年あとがき

…アテナ/黒いアテナ』*1のような本が生み出す抵抗や敵意の一部は、それがある文化や自己、民族的アイデンティティの積極的に不変な歴史性についての無邪気な信念を否定するようにお見えることから来ている。『オリエンタリズム』は、私の議論の半分を無視しなければイスラムの擁護には読めない。その半分で私が述べているのは (その後の著書『イスラム報道 増補版・新装版』でも述べたことだが) 出自によって属している原始的なコミュニティですら、解釈による反論を逃れられるわけではないし、西洋から見れば…

サイード『オリエンタリズム』25周年記念版版序文 (2003)

『オリエンタリズム』25周年記念版版序文 (2003) エドワード・サイード 山形浩生訳 Orientalism (Penguin Modern Classics)作者:Said, Edward W.Penguin Books Ltd (UK)Amazon 9年前の1994年春、私は『オリエンタリズム』のあとがきを書いた。これは自分で言った/言わなかったつもりのことを明確にしつつ、1978年に本書が出てから生じた多くの議論だけでなく、「オリエント」の表象についての作品が、ます…

プーチン『ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について』(2021)

…プーチンとの直通電話*1」で、ロシア=ウクライナ関係について尋ねられたとき、私はロシア人とウクライナ人は一つの民なのだと述べた——単一の全体なのだ。この発言は単に、何やら短期的な考察に基づくものや、現在の政治的な文脈に促されたものではない。これは私が無数の機会にのべてきたことだし、私の固い信念でもある。従って、自分の立場を詳細に説明して、今日の状況についての私の見解を述べておくべきだろう。 まず、最近になってロシアとウクライナの間に生まれた壁、基本的には同じ歴史的、精神的/宗…

ぼくは「モンティ・ホール問題」がよくわからない。

…てくれないだろうか?*1 追記 (2022.12.27) このエントリーにみんながいろいろコメントをくれて、自分の混乱していたところが理解できたように思う。みんなありがとう! それについてはこに書いておきました。しかし、ピンカーにこんな話を尋ねなくてよかった…… cruel.hatenablog.com *1:ホントは、ピンカーが来日したら帰国までの一時間ほどのアテンドもやってくれと言われていて、そのときにこれを尋ねてみようと楽しみにしていたんだけれど、その機会はなくなってし…

ノーベル経済学賞 2023−2028年トトカルチョ

2022年ノーベル経済学賞は、バーナンキ、ダイアモンド、ダイブヴィグ (ディブヴィグ? 字面でしか見たことないので読みをよく知らない) に決定した。金融・銀行系ね。 そういえば、むかしの自分の予想でもバーナンキは入れていたなあ、と思って昔のエントリーを見ると、ほうほう、なかなかよいではないの。2020年でバーナンキは次点扱い。2017年についての表を見ると、その後六年で3人は含まれている。まあ15人もあげてるから、ヘタな鉄砲もナントやらだろう、と言われればそれまでなんだけどね…

教養とは:漁父の辞と水処理

Executive Summary 教養というと、実学に関係ないステータス財なのか、それとも実学にも役立つべきベースなのか、みたいな議論が起こる。だがその区別がない場合もあるし、それが理想かもしれないという気もする。大学の上水道学の講義で、屈原の「漁父の辞」に水処理の基本原理が描かれていると、まさに我田引水 (水処理だけに) で強引に読み取ってしまった教授は、なんかそれに近いことをやっていたようにも思う。そこから、直接実学と関係なくても、それと関係あるものを引き出す契機、みた…

ポランニー/イモータン・ジョー/コルナイ:不足の経済と社会権力

…その変化を扱っている*1。 が、そのダホメだけの話を超えて、あの本にはいまの西側資本主義=市場経済システム批判、という大きなテーマがある。いまの西洋では、あらゆるものが市場関係で決まってしまっている。自由も、平等も、人権も市場の要請から決められた価値観だ、という指摘はとても重要。そして、多くの人は、自由や平等が市場に形作られた社会組織でしかない、ということにすら気がつかないくらい、市場システムにどっぷり浸かり、それに囚われきっている。ポランニーはそれを批判する。 これに対して…

プーチン本その1:朝日新聞『プーチンの実像』:ゴシップに終始して最後はプーチンの走狗と化す危険な本

Executive Summary 朝日新聞『プーチンの実像』(朝日新聞社、2015/2019) は、日本のぶら下がり取材的にプーチンが日本や自分たちと行った会見やその周辺人物のインタビューをあれこれ行っているが、明確な視点がないために、それが単なるゴシップのパパラッチに堕している。そのゴシップの価値にゲタをはかせようと、歪曲による祭りあげまで行ううえ、プーチンの軍事的な意図についてまったく触れず、このためプーチンは外国に対し、主権を持っているかとかいう抽象的な視点で判断を下…

ロシア帝国300周年記念に寄せて (2022/02/04): ロシア停戦交渉団親分の「帝国バンザイ!」

我らが偉大なhicksian 様のこのツイートで紹介されていたブログ記事、とてもおもしろい。 broadstreet.blog この著者はMITのソ連ロシア史教授、エリザベス・ウッズ。プーチンは、ヒル&ガディの現時点ではベストなプーチン伝「プーチンの世界」で紹介されている、「プーチンは歴史の男だ」というまとめを敷衍して、その「歴史」というのがおとぎ話に近いネトウヨ妄想なのだ、という点を指摘している。 プーチンの世界―「皇帝」になった工作員―作者:フィオナ・ヒル,クリフォード・…

ロシアの攻勢と新世界の到来 (2022/02/26): 侵略成功時のロシアの予定稿 全訳

訳者まえがき まちがって公開されたとおぼしき、ロシアがウクライナ征服に成功していた場合のロシア国営通信 RIA予定稿の全訳。すぐに引っ込められたが、Wayback Machineにしっかり捕捉されていた。すごい代物。いくらでも言いたいことはあるが、読めば多くの人は同じことを考えるだろうし、ある100年近く前のドイツの人が書いた文章との類似も明らかだとは思う。 以下のツイート経由で存在を知った。ありがとうございます! 1 “The resolution of the Ukrai…

『史記』に学ぶべき知識人の役割とは

…か、最後は周の武帝王*1の攻撃を受けて滅びるんだけれど、そのとき鹿台にあがり、宝玉で飾った服をまとって火に飛び込んで自害とか。北斗の拳のもとネタですか、という感じ。ドラマ作るべき。 あとは、かの九尾の狐が玉藻の前になる(そしてナルトに入る)以前の姿だった褒姒ちゃんが出てきたりすると、おおここにおいでなすったか、という感じではある。 が、閑話休題。しばらく読み進めるうちに、昔大室幹雄の名著『滑稽』で言及されていた、秦の始皇帝の話が出てきてとても懐かしかったと同時に、現代にとって…

ホール『都市と文明』II-1:工業技術イノベーション都市の理論なんだが、何も言ってないに等しい。

Executive Summary ピーター・ホール『都市と文明 II』は、産業イノベーション都市の理論のはずだが、まず冒頭にある産業イノベーションや都市立地の理論のまとめがあまりに雑でいい加減であり、したがってその後の各種都市の記述にとってのフレームワークを提供できていない。おかげでその後の長ったらしい都市紹介は、長いだけであまり整理されないまま。 さらに記述は都市そのものと関係なしに、蒸気機関の話だったり各種文化産業の話だったり。そして結論も、イノベーションは周縁部で起き…