- 作者: 寺嶋秀明
- 出版社/メーカー: ナカニシヤ出版
- 発売日: 2011/05/19
- メディア: 単行本
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平等を進化論的にとらえる本! デネット『自由は進化する』みたいな広がりのある本かと思って、ものすごく期待して花○をつけたのだけれど、結果的にはとてもがっかりする本だったのは残念。
冒頭部分では、平等の考え方をあれこれ羅列して、平等は定義できないという。でもその後、サルや狩猟採集民の話では平等があまり定義されないままに、著者の勝手な思い入れだけで話が進むという不満もある。猿山などでは、階級社会があって不平等でもあるが平等な者同士が毛繕いや遊びをすることで社会ができた、そして社会の進歩により人類は栄えた、よって平等は社会とともに進化したというんだけれど、それって定議論でしょ。そうした平等って、不平等がある中での相対的な話でしかないし、人が平等かどうか気にするのは社会の中での話しなんだし。
そして何より不満なのは、進化の話のはずなのに平等の必要性について論述があまりに薄いこと。平等だったらいいねえ、という気持ちはわからないでもないが、進化というならもう少し厳しい適応行動としての検討がないとダメでしょ。
狩猟採集民を含む貧しい社会である程度の平等があるなんていうのは、実は当然の話。名著『たつのこ太郎』でも指摘されている。貧しい社会では、一人がヤマメ三匹を独占したら他の人が飢える。人間は社会がないと生きられないから、そこで規範により平等性を強制するのは、その人自身にとっても社会を維持させる適応行動となる。
でもそれは社会が豊かになれば、維持する必要のない適応行動かもしれない。本書はそれをきちんと考えてくれず、突然原理談義になってしまう。そして仕方なく平等に甘んじるのと、全員がにらみ合いの結果として平等になっているのと、選択として平等になっているのと、同じように議論していいんだろうか。全体に、話があれこれ飛ぶんだがどれもツメが甘く、読んでいてイライラ。出発点以外は全然おもしろくなくて、テーマには惹かれるものの紹介するレベルではないと判断。
付記。
見て見て、このツイート。すばらしい。とても勉強になります。ぼくは今西進化論はざっとしか知らないし、その範囲ではあまり評価すべきものとは思っていないので、まったく考慮には入れていない。したがって、その観点からすれば確かに上の書評は不満なものかもしれない。
が、その一方で、この欄の第1の目的は、ぼくがなぜこれを朝日新聞の書評にとりあげなかったか、というのを説明することだ。今西進化論に詳しくないが故に本書の論点をぼくが理解できていないのであれば、それはなおさらぼくが本書を採りあげるべきでなかったのを裏付ける話となる。
その一方で、ぼくは本書が今西進化論的な説明もできていないと思う。何か環境的な要因で平等的な原理と不平等的な原理とか棲み分けをしたわけじゃない。不平等がなければ、平等という概念は成立しない。その意味で平等と不平等は対立する原理ではなく、棲み分けでどうこうという話でもなく、相補的なものにすぎない。その意味で本書の議論は、ダーウィン進化論ならダメだが今西進化論なら成り立つという性質のものではない。
その意味でぼくは、ここで採りあげたツイートは、該博な知識を背景にして勉強にはなるけれど、でもぼくの本書の第1の目的(書評対象にすべきかどうか)を覆すものではない。
でも他に朝日新聞の書評委員で、本書の議論をぼく以上にきちんと理解できそうな人といえば、福岡伸一くらい? 福岡さんがこの本を拾って書評してくれるとは……ちょっと思わないなあ。
さらに付記。
上の付記の発端になったツイートをしてくれた人が、この付記を「皮肉たっぷりに反応」と書いているので、ちょっと戸惑った。ぼくは上の付記の部分で、皮肉は何一つ言っていないつもりだからだ。察するに、冒頭で「すばらしい、勉強になります」と書いたのを、反語的・嘲笑的な真逆表現だと思ったんじゃないかと思う。
でも、ぼくは本当にあの指摘をしてくれたことがすばらしいと思っているし、あまり知らずまったく考慮しなかったポイントなので、ホントに勉強になったんだよ。それにぼくは元々、バカだと思えばストレートにバカというし、まわりくどい皮肉やほのめかしやあてこすりに頼る度合いは、立場を気にする小心で真面目な人たちよりは相対的に少ないはず*1。日頃あまりほめられる機会がなくて、賞賛を素直に受け取れない習慣が身についてしまったのかもしれないけれど、本当によい論点を教わったと思っているし感謝もしているので、まあそう身構えなさんな。重ねてありがとうさんでした。(6/4)
さらに付記。
ふと気がついたんだが、このコメントをくれた人に何か見覚えがあるような気がしていて、はっと思い出した。エミリー・オスター話のときにあれこれ (ぼくから見れば少し思い込みの先走った)コメントをくれた人だ。お懐かしや、って別に懐かしくはないが、多少なりとも教えてくれるほどに成長したか、と感心。
山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.
*1:ダジャレや冗談のネタになると思った場合は除く。