- 作者: レーモン・クノー,松島征
- 出版社/メーカー: 水声社
- 発売日: 2012/09/22
- メディア: 単行本
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- 作者: レーモンクノー,Raymond Queneau,朝比奈弘治
- 出版社/メーカー: 朝日出版社
- 発売日: 1996/11
- メディア: 単行本
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クノー『文体練習』の新訳が出ていたので、買って読みました。ご存じない方のために説明すると、これはレイモン・クノーが、バス停で男を見かけ、そして二時間後に別の広場でまたその男が、だれかから服装アドバイスを受けているところに出くわす、という出来事を99通りの書き方で描いてみました、というもの。
通して読むというよりは、パラパラ読んでおもしろがるたぐいの、思いつき瞬間芸みたいなもの。もちろん、通して読めば最後にオチ(というほどのものではないんだが)があるので、それはそれで楽しいかも。でも文体としては、まだおもしろかった頃の2ちゃんねるに、文体模写スレがときどき立ったけれど、笑える楽しさという点ではそっちのほうが上。ただし、このクノーのやつは、村上春樹風に、とかサルトル風に、といった特定の相手を茶化すようなものはなくて、新作紹介風にとか、おたく風に、科学論文風に、といった感じになっている。
これをおもしろがれるかどうかは、その人の心のゆとり次第。いそがしくて心の余裕がないときにはあまり楽しめない。いっしょになって遊べるかどうかで、こういう本の享受は決まってくるから。「新聞文体ならもうちょっと東スポ風にやったほうがいいなあ」とか、自分ならこんなやりかたもあると思う、とか自分なりの文体アイデアを思い浮かべつつ読めれば、楽しい。ブンガクに人生を語る知恵とか求めちゃう人、ストーリー的なカタルシスを求めちゃう人は、無理。
で、この新訳は、旧訳に比べてすごくいいとか悪いとかいうものではない。基本的に、単純な内容をいかにそれっぽく文体をかき分けるか、というお遊びで、どっちの翻訳もそれは非常に上手にこなしていると思う。どちらの翻訳も、ちゃんと原著の価値はわかって自分なりに遊んでくれているので立派。本当はとっても短い本で、どちらも訳者がずいぶん長々と解説をしてしまっているんだが、本来はそんな深読みする本ではないんだと思う。ネタを説明しすぎているようなところもあるし。特に新訳に入っている論文は、ぼくは「うひー」という感じだった。まあ文学屋さんはそういうのを深読みするのが仕事だからしょうがないんだが、ちょっとよそでやってくださいという気はした。でも、旧訳の解説では改訂されたときの旧稿の紹介なんかも入っているし、新訳でもあれやこれやの周辺情報は多いので、参考にはなります。参考にしてどうする、というような本ではあるんだが……
あと、どっちも高いよなあ。特に旧訳の装幀は好きなんだけど。訳者の解説なくして、500円の文庫本で読み飛ばすくらいにしたいところではある。
山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.