田嶋『高学歴貧困女子が読み解くピケティ』:意外や意外、ベスト級の解説書。色物に非ず!

高学歴貧困女子が読み解くピケティ (SAKURA・MOOK 2)

高学歴貧困女子が読み解くピケティ (SAKURA・MOOK 2)

見た瞬間、まあろくでもない色物だと思うのは人情でしょう。高学歴貧困女子がこんな問題抱えているというのを、おちゃらけマンガをからめつつ、ピケティをいい加減につまみ食いしつつ書いて、『21世紀の資本』とは何の関係もない代物になってるんだろうと思うじゃない?

ついでに、この田嶋智太郎という著者監修者、アマゾンで見るとこれまでの本は、見るからにお馬鹿のインチキ臭漂う、FXで儲ける方法とかのお手軽投機本ばっか。本書がまともなものになっているとは、とうてい思えませんがな。

その見方を裏付けるのが、なんだかいきなりついているアマゾンの読者レビュー。他の解説書は『21世紀の資本』に縛られているが、これはそうじゃないって言われると、まああらぬ予想はするよね。一応、解説書なら縛られてほしいと思うんだが、そうじゃないと言うんならこれはよっぽど……ちなみに、人々が関心あるのは格差問題であって21世紀の資本じゃないっていうなら、普通の格差問題の本がもっと売れるはずだとおもわね? この人、このまったく同じ理屈をピケティ関連本のレビューにいっぱいつけていて、善意だろうけどたぶんこの人の思ってる効果は出てないと思うぜ。

が、閑話休題。で、何も期待しないで中身見てみました。そしたら意外や意外。すばらしい出来。

まず前半は、ちゃんとピケティ『21世紀の資本』の解説。判型は大判で、図解を交えつつ見開きで解説するスタイルは、安田監修のやつと似ている(こっちは横書きだけれど)。それぞれのポイントもちゃんとおさえてあって、ピケティがどういう流れで何を言っているのかは明解。出版業界とかだと「女性のための」とか「女子」とかいうのは、「レベルが低い」「幼稚でひらがなまみれ」というのの符牒になっている場合があまりに多いけれど、この本はそんなこともありません。類書と遜色ないか、それ以上。

で、後半に入ると、日本の話。この部分は、安田監修本よりもはるかに多い分量になっている(本のシェアでいうと、安田監修本は20%くらいなのに対して、こちらは50%)。特長としては、日本の貧困の話、各種格差の話について押さえると同時に、日本の税制について非常にていねいに述べているところ。税金の役割なんていう非常に基礎の部分までもきちんと解説してあるのはすばらしい。この本も、デフレ経済による停滞については触れつつもアベノミクスがどうとかいう話には触れず。

ちなみに、タイトルの高学歴貧困女子であるピケ子ちゃん&トマ子ちゃんは……別に高学歴貧困であるのがまったく活かされていません。カバーに出てるネーチャンたちですが、特に二人にまつわるストーリーがあるわけではない。最初のページと最後のところに、少し身の上話みたいなものもあるが、まあそれを真面目に読んでもなあ。ちなみに、高学歴貧困女子と出したことでトンデモ扱いされるんじゃないかという点は著者や版元も認識していたらしく、冒頭でピケ子が「トンデモかどうかごろうじろ」みたいな啖呵を切ってるが、うーん、ちょっと遅れて出てきたから差別化、という意図はわかるし、失敗してるとも言えないが、うーんどうかなあ。ちょっと真面目な読者には逃げられそうなコンセプトのように思う。もったいない。

ぼくとしては各種ピケティ本のなかで、これまたベスト3に入る本だと思う。気分次第ではトップをあげてもいいくらい。色物だと思って手を出さなかった方、いまから付け焼き刃でアンチョコ本を探している方、タイトルだけで捨て去るのはあまりにもったいない。読んで損なし。