山本義隆『福島の原発事故をめぐって』: 目新しい知見はなく、洞察も独自性はない感情論

福島の原発事故をめぐって―― いくつか学び考えたこと

福島の原発事故をめぐって―― いくつか学び考えたこと

献本してもらった。昔、「磁力と重力」本の売り上げに貢献したからだと思う。

山本義隆が福島の原発事故をめぐって書いたすごく短い本。それが経験則にもとづかない科学理論だけを過信したもので、産業としても批判がなく、政治的に癒着してあれこれで原子力村で、うんたらかんたらで人間は原子力をコントロールすることはできない、という話。

おっしゃることはわかるが、別に目新しい話ではない。結論も、田崎さんが自分のウェブページで述べていた感想といっしょ。買って読む価値はない。資本主義の危機からニューディール政策を経てマンハッタン計画から原子力推進という流れで、ここぞとばかり資本主義批判につなげようとする論調も、ぼくはあさましいと思うし、別にそれが論旨に特に影響するとは思えない。

そして最後が、大量消費社会と成長ばかりでない新しい社会のあり方を――そんなつまらないことしか言えないなら、いっそ黙っていてほしい。原子力はダメと思うんなら、それはそれで結構。でも別に原子力がなくったって大量消費社会や経済成長の根本にはまったく影響がない。それを認識せずに、たまたま並行して進んできただけのものを、こっちがダメだからあっちもダメにちがいない、という本当にだらしない理屈も何もない感情論をたれながす山本にはがっかり。それに、原子力イヤイヤはいいけどさ、いまある原発はどうすればいいの? それを何とかするには、物理や原子力工学はちゃんと続けなくてはいけないんだけど、それを考えずに「やめましょう」では話にならないでしょう。



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