市野川『社会学』:後書きで書いている通り、全部書き直してほしいと思う。

社会学 (ヒューマニティーズ)

社会学 (ヒューマニティーズ)

これが社会学業界の中の人に向けた、社会学の基本論点整理ならこれでもいいんじゃない? その場合、これはぼくとは関係ない本なので読んだのは大いに時間の無駄だった。

そうでないなら――社会学業界外の人に読んで、社会学の問題意識とかを少しわかってもらおうという本なら、まったくダメだと思う。いきなり、コントがこういってそれに対してデュルケムがどうした、そこで特に医療の話についてはベルナールがあれこれ、とわずか数ページほどの間に、なんだかすさまじい個別談義に落ちていって、結局社会学ってどういうもんで何がしたいのか、というのがちっとも見えず、チマチマした個別議論の中で、こんなこともできるかも、あんなのもあるかもと並べ立て、ついでにEBMはダメで、と目をむくような意趣晴らしめいた話が散りばめられる。

本書はひたすら、「だれそれは著書『ナントカ』でカントカと書いた」というのを羅列する。さて、そのだれそれの意見というのは拝聴すべきだとなぜ言えるのか? そのカントカという意見は、一意見なのかある程度一般性を持つのか? たぶん学問内関係者にはそれがわかるんだろう。でも、知らない人にはまったくわからない。

ついでに、EBMの話とかでもそうだが、自分の気にくわないものに対して、きちんと批判はしないんだが行きがけの駄賃でチャチャ入れて悪印象だけ残すやり方が随所にあって、すごくいや。そしてそれに伴う、自分の批判をちゃんと述べないことが、何か中立で公平だというようなポーズも嫌い。最後のオープンエンドなふりした「そして21世紀の私たちは?」(p.170) という問いかけもそうで、それはアンタが専門家として自分なりの答えを示すべきじゃないの?

が、二度読む中で、やはり本書は社会学の業界人だけのための本だという印象がますます強くなった。たぶん、社会学業界の中では、これは意味ある本なんだろう。でも、それ以外の人にはまったく読む必要のない本だ。そして、もしそうでないというなら――あとがきに書いた通り、全部書き直してよ。あと一冊くらいは我慢して読んでやらないわけでもないから。



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