『放射能を食えというならそんな社会はいらない』:おまえがいらない。

放射能を食えというならそんな社会はいらない、ゼロベクレル派宣言

放射能を食えというならそんな社会はいらない、ゼロベクレル派宣言

  • 作者:矢部 史郎
  • 発売日: 2012/06/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


ゼロベクレル派宣言なんだって。シーベルトもなんか怪しい陰謀がらみだから信用できないって。でも、ふつうの食品もふつうに放射線出しますんで、ゼロベクレル無理ですから。むろんこうした立場を取るのはその人の勝手だけど。そして事故直後には、こういうことを言う立場も、説得力はさておき、無理もないものだっただろう。でも、一年以上たった時点で、もはや単純にその当初の印象だけをふりかざすのは、思想家を名乗るのであれば (名乗ってるんだよ、この人) ダメだと思う。思想家というわりにあまり考えてない、というか考えていても、下手の考え休むに似たりで進歩がない。いまだに、放射「能」で人がこれから大量に死ぬとか本気で言ってるに至っては、どうしたもんか。こういう脅しに荷担したいとはぼくは思わないし、紹介したいとも思わない。でもこうした問題については、非常に期待している本があるけど、そうした正しい啓蒙の必要性を本書を読んでなおさら痛感。その本を扱おうという決意が湧いたことには感謝。こうご期待。


追記

ここでふと気がつく。そういえば、先日ぼくがまったくダメな本として罵倒書評を書いた本の著者である篠原が、その反論なるものの中でこの本を絶賛しているのだった。

この罵倒書評と、反論へのコメントの中で書いた通り、篠原の本や議論はすべて、具体的な裏付けのない著者個人の単なる印象をこむずかしく並べただけのものだと考える。ぼくは、それが思想だとも哲学だとも思わない。そしてこのゼロベクレルも、ぼくは混乱した印象論だと思う。やっていることも、計測器の扱いをあまり知らない人が、いい加減な計測を行うことにあまり意味はないだろう。

こんな社会はいらないと言いたい気分は、まあわからないでもない。ATR ファンでもあることだし。でも、こんな社会しかないことをぼくたちは受け入れるしかないし、またこんな社会ですら、あることを感謝せざるを得ない――それを忘れて、社会のありかた全体をどこか高見から否定できるような発想は、それ自体危ういものだろう。この人は、福島原発でのいまの作業者たちがストライキをして、それで原発周辺や東日本全域が危機に陥ればいいと本気で言ってる (p.159)。でも、そのストをするはずの作業員はアンタじゃない。アンタが安全なところから、他人がストやってくれないかなー、なんて他力本願で夢想するのがいかにくだらないことか。そしてそれによる安易な破壊待望がいかに卑しいものか。今の社会での放射「能」の拡散が許せない、そんな社会いらないと言った舌の根も乾かないうちに、ご自分の厭世思想の実践のために原発をわざと破壊すればいいと主張する物言いがいかに下劣なことか。あんたの社会はもっといらないわい。

それがわからない人々、本書の提灯持ちをしている池上善彦などにはもちろん何も期待してはいけないし、本書をほめる篠原の物言いも同じ。この二人が野合しているのは、それ自体が何かしら物語るものではないかと思う。ちなみに過去の経験からいうと、こういうまったくちがう方向から同じモノにたどりつく変な偶然は、意外と結構意味を持っていたりするんだけど。

さらに追記 (7/13)

これを見て、「これが最後」といった篠原がまたコメントをつけている。これで終わりにするといいつつ未練たらしく出てくるのは2chなどでよく見かけるパターンだけど、I wasn't talking to you, DB. でもぼくの言うことはさておき、コメント欄できちんと答えたほうがいいと助言されているのに対し、いやよく見ればすべて回答している、という逃げはあまりに不誠実じゃないかな。それが回答とは思えないからこそ、そういうコメントが出てきてるんだよ。自分の読者の意見はきいたほうがいいと思うよ。

あともう一つ、hamaブログがここでの記述に言及

私はこの矢部氏の本は見ていないので、彼がどういう文脈でそういっているのかは分かりませんが

ほほう、見てない、わからない、と。するとあとは憶測ですな。そしてその憶測をもとに

労働組合が職場における労働力商品の取引の売り手側の当事者であるということ」がすっぽりと欠落していることだけは間違いない

とのこと。見てないのに間違いないかどうかわかるんですか。さらになんでここで労働組合が出てくるんです? ストといえば労働組合しかできないと思い込んでいる時点で、ここでの話の文脈からすればピント外れ。労働者は労働組合の手駒ではないんですよ。



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