ヴィッカーズ『p値とは何か』:原著はよさげなのに翻訳劣悪、さらに著者名が表紙/背表紙/奥付に書いてないってひどすぎ。

p値とは何か 統計を少しずつ理解する34章

p値とは何か 統計を少しずつ理解する34章

p値とは何かを中心に統計について多少漫画チックな部分も交えつつ解説するいい本なんだけれど、著者名が全然出てないのね、これ。表紙はてっぺん部分の原題の下に薄くあるだけ。背表紙はノーメンション、奥付にすらヴィッカーズの名前が出てこないって、あまりにひどくないですか。ぼくはこの監訳者の著書だと思っていて、中がなんだか翻訳チックなのにびっくりして、よくよく見れば翻訳書ですか。

このぼくも著者より訳者の名前が大きいという恥ずかしい訳書が数冊あるけれど、著者名まったく無視というのは見たことがない。本としては、軽く読みながら統計概念が多少は理解できるいい本だと思うし、索引もちゃんとつけて手のぬかないよい作り方なんだけれど……

名前がでかく出ている竹内正弘は「監訳代表」。訳者群がいて(総勢14人!)、その上に監訳者群がいて、その上に監訳代表がいるんだけど、翻訳って数が多けりゃいいってもんではないと思うんだが。結果として、すごく官僚的な機械的直訳チックになっているのは残念。

繰り返しになりますが、すべては状況に依存します。これが適切な回答です。t検定とWilcoxon検定のいずれがよいといえば、悪い方は利用されることはありませんし、このような章を書く必要がないためです。(p.84)

こんなのばっか。原文を思いっきり推定しても、何言ってんのかわからん部分がかなり多い。訳者がたくさんいるせいか、あるいは中身のせいか、すらすらわかる部分はわかるんだけれど…… ちょっとひどくね? さすがに統計の理屈そのものの部分はそこそこまともだけれど、それを説明するはずの例示とか例えとか全部こんな具合では、この本の意味ないじゃん。



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