新都市はつらいよ:世界の新都市の苦境

Starting from Scratch: Urban Dreamscapes (The Economist 2013/9/7 p.22)

マスダールシティの建設計画が2006年に発表されたときには、SF古典『デューン砂の惑星』から飛び出してきたように思えたものだ。アブダビの砂漠の中、世界最大の化石燃料備蓄の上に、世界初のカーボンニュートラルで廃棄物ゼロの都市を造ろうというのだから。だがこの都市は直接砂の上に建つのではない。あらゆる建物は持ち上げたデッキの上に建つ。そのデッキの下で市民たちは、自走ポッドに乗ってビュンビュン飛び交うことになる。さらに、灼熱の温度の下でも市民たちは快適に感じる。これは巧妙な都市計画のおかげで、たとえば日陰の多い狭い街路が、涼しい砂漠の風が吹きぬけるように配置されたりするわけだ。

発表から6年後の未来になると、この未来は前ほどすばらしいものではなくなっている。マスダールのほとんどは、イギリスの建築家ノーマン・フォスターの指揮下で作られているが、もはやデッキの上に建ってはいない。自走ポッドの模型は博物館に置かれるが、でも実用面ではメニューから外れた。伝統的な自動車、よくても電気自動車が街路を走ることになる。といっても、その街路ができたらの話だが。この都市は2016年竣工予定だったが、この予定日も2020年から2025年の間に先送りされている。

他の鳴り物入りで発表された「最初からスマート」シティも、みんな同じように成功の兆しがほとんどない。ソウル近くの松島(ソンド)は、電子ハードウェアを満載したマンションやオフィスを誇る――特にビデオ会議システムがすごい――が、住民は誇れない。そこに引っ越したがる人がほとんどいないのだ。ポルトガルのプランITバレーは高度なセンサーだらけの魅惑都市になるはずだ。だが2009年から喧伝されているのに、いまだに着工していない。

ポルトガルの問題は金融危機も大きいし、アブダビもその気はある。アブダビの金持ち開発企業ムバダラがマスダールを発表した頃には、お金は問題ではなかった。「建てればみんな来る」が呪文となった。でも金融危機以後にみんな正気に返って現実的になったことで、同社はこの都市を「少しスピードダウンして計画を見直す」よう促したのだ、と同社の親分アーメド・アルジャベールは語る。

すべて絶望ではない。マスダールはもともとグリーン技術の「生きた実験室」をうたっていた。いまやその教訓は、少ないモノでいかにやりくりするかということだ。そして都市の数河外では、研究者たちは太陽エネルギーを直接冷房に使う方法や、砂漠に最も適したソーラーパネルの研究をしている。プランITバレーは足踏み状態だが、その技術の一部はロンドンのグリニッジ半島で使われる。そしていつの日か、松島(ソンド)をごちゃごちゃ埋め尽くしているハードウェアもだれかが使い道を見つけてくれて、人々が実際にそこに住みたくなるかもしれないではありませんか。

コメント

えーと、某国がやたらに売り込もうとしているスマートシティはもちろん大丈夫、ですよね??!! しかしこの手のアレはつくばとかいろいろ先例があるのに、懲りてないのか…… いっそアーコサンティでもだれか支援しないかなあ。

あと、韓国はインチョンの外あたりにもっと壮絶なの作ろうとしてなかったっけ? 海の真ん中に天橋立みたいなのが通ってその中心に大きな円形のなんかがある予想図を何度か見た記憶があるんだが。それとも、あれが松島なのかな? 帰ったら調べねば。