アーウィン『マネーの支配者』:ECBトリシェと、その人形遣いブンデスバンクの悪行が見所です。


こんな本が出ました。で、この本は頼まれて帯の推薦文を書いたんだけれど……こんな具合になってきました。

なんで表紙のどの名前よりもぼくの名前がでかいんだよ!! ワタクシ、そこまで営業貢献力ないと思うんですが……この推薦文に込めた当てこすりを、二割くらいの人は理解してくれると思う。

が、この本は非常におもしろい本ではあるので、是非お読みくださいな。中央銀行制度のさらっとしたおさらいに続いて、本題はこないだの金融危機の背後で中央銀行の親玉たち(除く某国)がいかに苦労したかという話。

中でも見所は、あれほど緊縮にこだわり続け、バカで頑固で頭が悪く見えて「白川かトリシェか」とまで言われたECB のトリシェが、実は結構わかっていて緩和したがっていたというところ。でもECB の背後にいる悪のパペットマスターたるブンデスバンクが常に(いつも決定前夜になって)あらゆる緩和に反対し、財政規律だ引き締めだと要求して、操り人形トリシェはぶち切れそうになりながらも言うこときくしかなかった、というところ。とはいえ本書の描き方は少し好意的すぎて、当時のトリシェは本来あるべきよりかなり緊縮派だったと思う。

もう一つの見所は、日本版の解説。大学の先生が書いていて、日銀に触れざるを得ないんだけれど、あまり悪いことは書きたくないという政治的配慮で苦労しまくり。かわいそうに。ちなみに本書は金融危機直後の話なので、日本は「そういえば昔、量的緩和とかしたよね」という一章以外はまったく出てきません。なぜでしょうねえ、ホーメイくん。

なお、本書の前段となる中央銀行制度開始以来の話(とその以前の失敗)を詳しく知る読み物には、ライアカット本がおすすめです。

世界恐慌(上): 経済を破綻させた4人の中央銀行総裁 (筑摩選書)

世界恐慌(上): 経済を破綻させた4人の中央銀行総裁 (筑摩選書)



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