Amazon救済 2005年分 1

川島『伊勢丹な人々』: 「それでどうなった?」が皆無!, 2005/6/16

伊勢丹な人々 (日経ビジネス人文庫 ブルー か 4-1)

伊勢丹な人々 (日経ビジネス人文庫 ブルー か 4-1)

本書は、何をやったかという話はあれこれあるんだけれど、それが結局成功したのか、どういう結果になったのか、という部分がほとんど皆無! 新しいブランドをたちあげました、こういう売り場構成にしました、新しい発想をとりいれてみました、とかいった話はたくさんあるんだが、それで結局売り上げや来客は増えたのか、という話が定性的なものすらほとんどない。しかも変遷も時系列でダラダラ並べているだけで、全体を貫く主張もなし、さらに最後のあたりになるとほとんどの節の終わりが「~と期待したい」「~だと思う」といった著者の根拠レスな感想文ばっかり。評価軸がない人の書いた、成り行きに流されただけの実用性のない本です。

バルト『現代社会の神話』: 今日的な意義のない、バルトの教条左翼ぶりを哀れむだけの本。, 2005/6/7

現代社会の神話―1957 (ロラン・バルト著作集 3)

現代社会の神話―1957 (ロラン・バルト著作集 3)

現代のいろんな報道や記事なんかが、実は現代社会の各種価値観を肯定する役割を果たしている、というのを各種の時事ネタから述べたエッセイ集。50年前は先駆的だったのかもしれないが、今はこうした見方が常識となっていて、現代的価値はほとんどない。

またソ連の実態をありのままに伝えた記事に対して、これは反ソ連の神話を反復しているだけだといきりたったり、港湾労働者が親分の搾取に刃向かう映画を、これは組合運動否定の神話だと主張したり、さらに最後の理論編で、左翼は現状を肯定するのではなく革命による変革をめざすので神話は基本的にない! と述べたりするあたり、バルトこそ最低の親ソ左翼むきだしの神話の奴隷であったことが露骨にわかる。

そしてかれは、本書でブルジョワ神話の手法と称して批判していたことをすべて、後の「記号の国/表徴の帝国」でだらしなく無批判に実施するようになる。バルトが過大評価されていることを再確認するにはいいかも。

Levitt『Freakonomics』: 変わった事象を経済学的に分析する楽しい本, 2005/5/20

Freakonomics: A Rogue Economist Explores the Hidden Side of Everything

Freakonomics: A Rogue Economist Explores the Hidden Side of Everything

合理的期待形成や収穫逓増といった大きな物語がなくなったあとで、独創的なデータ活用で意外なことを経済学的に説明する名手として、クルーグマンの次代のホープとして名をはせるレヴィットの本。新古典派の教義をひたすらふりまわすベッカーとちがい、あっと驚くきめ細かなデータ活用による繊細な分析が楽しい。犯罪と刑罰等の関係についての分析や、おそらく最も有名なのが日本の相撲の八百長を実証してしまった得体の知れない分析! それらが楽しく解説されています。ときどき文がだれるのが難点。

Darwin『On Natural Selection』: 種の起源抜粋版だが、きちんと要点をおさえている。, 2005/4/24

Great Ideas On Natural Selection (Penguin Great Ideas)

Great Ideas On Natural Selection (Penguin Great Ideas)

 ダーウィンにこんな本あったっけ、と思って買ってみたら、実は本書は「種の起源」の抜粋でした。しかもそれが版権ページにものすごい細かい字で書いてあるだけ!

しかしながら、悪い本ではありません。長い「種の起源」を読む前にざっと流し読みするには好適。生存競争の考え方、それに基づく自然選択(淘汰)の議論、そしてこの理論の難点とそれへの反論、そして結論という非常に簡潔ながら要点をおさえた構成が100ページ強につまっています。

 ダーウィンに対する反論というものはしょっちゅうでてきま すが、それらはすでに「種の起源」そのもので反論されているもの がほとんどです(反論したつもりになった人の多くは、実は種の 起源をちゃんと読んでないのです)。それがこの短い一冊にも まとめられているのはうれしい。一般人も、いきなり種の起源に とりかかると挫折しますが(昔の人のくどい英語だし、本自体 がすごく長いから)本書くらいでざっと要点をつかむとかなり 理解も進むんじゃないかと。値段がちょっと高いかな。日本だと 300円くらいだといいんですが、まあしょうがないか。

武田『脳は物理学を……』: お勉強のまとめとしてはいいが、タイトルに偽りあり。, 2004/12/18

脳は物理学をいかに創るのか

脳は物理学をいかに創るのか

物理法則は脳が作り出したものだ! という、悪しき文化相対主義者の言いそうなことが帯にも序文の冒頭にも述べられているので、大いに警戒しつつ読み進んで行ったのだけれど、なーんだ。内容は脳科学についての比較的新しい知見をまとめただけで、ニューロンとは何か、「モノ」はどのように認識されているか、そこでの情報処理はどんな形で行われていて、抽象概念はどんなふうにできあがるか、といった内容がそこそこ説明されているのはいいでしょ(でもディテールの羅列気味で、全体のテーマに貢献しない部分が多いのは日本人の著作にありがちな点)。

そして確かに、物理法則というのを考えるにあたっては、そうした認知能力は必須だから、それをもって「脳は物理法則を作っている!」と主張することはできなくもない。でもそれはあまりにミスリーディング。

物理学者が、脳科学に興味をもってあれこれおもしろがって勉強しました、というのはわかるんだが、お勉強をそのまま出されましても……。そして結局、それ以上の話はまだまだわかりません、と書いておしまい。これではタイトルに偽りありまくり。結局タイトルの問題提起は何ら答を見ない。そしてピンカーの本のように、その新しい成果の整理をもとにおもしろい知見や洞察があるわけでもない。結局何なの、という消化不良な読後感だけが残る。

電源ユニットがでかくてファンの音が気になるときもある以外は満足。, 2004/12/16

(確か当時でまわったbiDesign かなんかの液晶テレビ

カタログ等ではわからないこととして、これって巨大な電源ユニットが別の箱でついている。それについてるファンがそれなりの音をたてて、静かな映画などを観てると気になる。ただしこの電源ユニットは本体からある程度離せるので、それで音の聞こえにくいところに持っていくことで対応はできる。

画面的には、DVDやビデオを観るにはまったく問題なし。カタログの数字で見ると液晶の応答性能が遅めに見えるが、よほどの高速ゲームでもやらない限り絶対問題にならない。マトリックスや NIN ライブ等でも支障なし(まあこの手の画像ソースならあたりまえか)。また本製品の新型がすでに出ていて、これが20万を切る値段となっている。PCカードスロットが省かれた廉価版だが、PCカードスロットはほとんど使い道がない代物なので、なくても全然問題なし。この値段ならほとんど文句なしではないかしら。左右スピーカーも大きいし低音もきちんと出て、音楽系の DVD でもそんなに不満なしに聞けるレベル。入力端子が豊富なのもうれしい。

なお、30インチは店頭で40インチだの50インチだのに混じっていると小さく見えてしまうけれど、実際に家に置いてみるととても大きくて、店頭の37インチくらいの印象は優にある。29インチブラウン管の買い換えなので、これだと縦がつまって見えるかと恐れたが、最近のソースの多くは横長なので、画面が小さく見えるようなことはまったくない。またデザインもシンプルかつシャープで、どんくさい感じはまったくなし。

橘木他『脱フリーター社会』: 単著にするのはきわめて不誠実なうえ、中身もまったく不十分。, 2004/12/12

脱フリーター社会―大人たちにできること

脱フリーター社会―大人たちにできること

第1部、2部にわかれていて、1部は著者が書いて、2部はその研究室の学生たちが書いたそうな。だったらそれを単著として発表するのは不誠実きわまりない。さらに情けないことに、先生が書いた部分より学生が書いた部分のほうが、相対的に優れた出来となっている。

 橘木による第一部は、そもそもフリーターの何がいけないのかまったく述べずに議論が展開されるため、何を騒いでいるのやらわからん。香山リカの思いつき書き殴り本が主要な参考文献になっていて信頼度もがた落ちだ。フリーターの多くは責任ある仕事につきたくないそうで (p.34)、所得分布もかなり均一だ(p.20)。だったら現状は、責任を持ちたくない人がその分安定性の低い仕事についている健全な需給マッチで無問題でしょ。そして最悪なのが提言。フリーターを減らすために、若者に結婚しろと提言する! たかがフリーター減らし貢献のために、だれが無理してしたくもない結婚するもんか。聞く相手のいる提言してくれ。

 一方、第二部はもう少し堅実ではあるんだが、フリーターがなぜいけないか、やっぱり説明が弱い。さらにフリーター増の原因は企業にあるというんだが、フリーターへのアンケートによれば、7割近い人が就職先はあるのに勤務地や給料やその他条件があわない、という理由でフリーターをしている(p.151)。だったら原因は企業じゃなくてフリーター側がぜいたくを言っているのでは? 企業は別に、無理して自分たちの要求条件を曲げてまでフリーター様に正社員になっていただく義理はないのです。だからその後の提言も説得性がない。

 結局全編とにかくフリーターを減らすべきだ、というのが前提になってしまい、議論がゆがみまくり。マッツァリーノ『反社会学講座』のフリーター肯定論に応えられないものは、いまやまったく無意味でしょう。学生さんの努力に免じて星三つ。だけどお勧めしません。

Lomborg『Global Crises, Global Solutions』: 出ました! 「じゃあ何をすればいいか」へのお答え。, 2004/12/3

世界的ベストセラーSkeptical Environmentalist /『環境危機をあおってはいけない』の著者ロンボルグが受けた的はずれな批判の中で大きなものは「ロンボルグの議論は現状追認だ!」というものだった。もちろんロンボルグはそんなことは主張していない。優先順位を考えろと言っただけだ。そしてかれが世界の一流学者を集めて、本当に世界が直面している各種問題の優先順位づけを行った一大プロジェクト、コペンハーゲン・コンセンサスの成果がこの本。地球温暖化、伝染病、教育、貿易など、大きな問題とその各種対応策について、コストと便益をきちんと計算してもらい、またそれに対して反対の立場から批判させる。そのプロセスを経た計算結果をもとに、優先順位をきちんとつけたのが本書。

 いま世界で何より重要なのは、HIV/AIDSへの対応策だ。これは今すぐ何百万もの命が救える。栄養失調の解決が次点。一方、地球温暖化はどうせ数百年がかりのプロセスで、対応が10年遅れても大した差はないし、京都議定書みたいな対応策はあまりにコストが高くつきすぎる。

 この結果に、温暖化でおどしをかけて商売している環境団体は反発したけれど、「HIV対策をやめてまで温暖化施策するほうがいい」という証拠はだれも示せていない。本書を読んで、地球の未来にとって本当に有益な施策とは何か、そのために何をすべきか、冷静に考え直してくれる人が一人でも増えることを祈ってやまない。

前田建設ファンタジー営業部』傑作。すばらしい。土木技術も進歩したもんです。, 2004/12/3

前田建設ファンタジー営業部

前田建設ファンタジー営業部

 柳田理科雄みたいに、アニメや特撮モノのあげあしをとって、非現実的だと嘲笑する非生産的な試みに対して、本書はマジンガーZの格納庫を本気で造ってしまおう、おとぎ話を現実化してしまおうという壮大な試み。「え、あんなものがマジで作れるの!?」というオドロキに対して、平気で積算して見積もりと工期を出してしまうというのは笑えるだけでなく、実際の土木建設の検討プロセスまでわかってとっても勉強になります。

 ゼネコン営業というと公共事業受注のためのお役所接待みたいなイメージがあるけれど、実はこういう技術的、コスト的な詰めのプロセスが重要なんだというのを教えてくれて有益。そして、本気で実現性があると思うと、アニメを見るイメージも変わってくる。しょせん外見だけのフィギュアとはまったくちがった、重たいリアリティを元のアニメにも戻してくれる好企画だ。次回作もあるそうで期待したい。それとこんどは別のゼネコン(五洋か飛島か熊谷あたり)と対決するのやってくれないかな。

ランド『肩をすくめるアトラス』: 自分が分不相応にえらいと思っている人だけが感動する本。, 2004/12/1

肩をすくめるアトラス

肩をすくめるアトラス

アイン・ランドの代表作。長いし、小説としてはへたくそです。大仰な描写、延々としゃべりまくる饒舌な登場人物。すべては功利主義で進み、主人公の鉄道会社重役ダグニー・タガートは、ボーイフレンドよりも有能な男が目の前に登場するとあっさり乗り換えて、そのボーイフレンドも功利主義者なのでそれを平然と祝福するなど、失笑するような場面が満載です。

 本書に人気があるのは小説として優れているからではなく、その思想に共鳴した人々が一種のカルトを形成しているからです。ソ連から亡命してきて、ひたすら国の規制を毛嫌いする彼女の思想は、かなりおめでたい自由放任実力主義です。世の中には、生まれつき有能な人と無能な人がいて、世界は有能な人のおかげで動いているんだから、そのエリートたちを(国の規制などで)邪魔してはいけない、というだけの話。本書でも、有能な人は生まれてずっと有能、そうでない人はずっと無能な寄生虫、という描かれ方は一貫しています。

 本書を読んで感動し、ランド支持者となる多くの人は、自分こそはこの優秀な側の人間だと思っています。でも実際には、多くの人は自分が思っているほどは有能ではなく、社会的な評価の低さも実は単なる分相応だったりする場合がほとんどです。本書を絶賛する人は、いったい自分がランドの世界でどこに位置づくかをよく考えてみるべきでしょう。

 著者のランドも「自分は優越人種なのだから通常のモラルには縛られない」と放言して25歳も年下の(既婚の)愛人を囲い、かれから別れ話を切り出されると逆上して破門など、自分の教えほどは功利主義的には生きられなかったようです。また彼女の死後、その弟子たちは派閥抗争を繰り広げて分裂を繰り返しています。彼女の「教え」は本当にそんなにいいのか? そういうことを考えながら、批判的に読むといいでしょう。